霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

デジタル教科書

2024年から,小中学校にデジタル教科書の本格導入を検討するという.

https://www.asahi.com/articles/DA3S14836823.html

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG174PT0X10C21A3000000/

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ふーんと思うと同時に,日本の公立小中学校で本格導入などできるのかなと思ってしまう.普段からPCで仕事をし,スマホで情報収集している立場からすれば,勉強効率や便利さ,重いランドセル問題の解決などメリットは山ほど考えられる.だが小中学生が毎日使うものとして考えると課題も多い.でも,朝日の記事に書かれている貧富の差による教育格差拡大や脳の発達への悪影響について心配は,イマイチピントがずれているように思う.

デジタル機材と教科書データについては紙の教科書と同様に無料配布すべきだろうし,それができないなら導入すべきではない.貧富の差が影響しないように教育を設計することは当たり前のことだ.脳の発達に悪影響って,それはゲームアプリの話であって,まともな教科書を作れば悪影響などあるはずがない.少なくとも今の教科書をそのままデジタル化するのであればそんな問題はない.せっかくのデジタル教科書なんだからマルチメディアにしなけりゃとか,ゲーミフィケーションだ(ゲーム的要素をいれなきゃ)などとIT小僧のようなことを考えなければいいのだ.そんなものを導入したら,子どもたちの文章を読んで理解する能力が今以上に落ちるのは目に見えている.物ごとを言葉で伝えられないIT小僧を量産するだけだ.

知性の大切な要素の一つは文章を読んで理解する能力.そして文書を書いて自分の考えを明確にロジカルに人に伝える能力.日本では箇条書きやグラフや表ばかりが重視されてまともな文章を書けない人も多いが,それは同質な人々の集まりである高コンテキスト文化の中でしか通用しない.多様な価値観を持つ人々が集まる低コンテキスト文化の中では文章,言葉こそが大切なのだ.箇条書きや断片的記述ばかりのパワポを禁止しているアマゾンを見習えばよい.

https://bunshun.jp/articles/-/15306

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デジタル教科書の本格導入で一番問題になると思うのはデジタル機材の故障だ.例えば35人の小学校のクラスがあって全員がタブレットを持ち,宿題するために家に持ち帰ってよいとしよう.1年の間に少なくみても5人,多ければ半数のタブレットは壊れるだろう.落としたり,飲み物をこぼしたり,踏んで液晶を割ったりする.大学院生ですら1年間ノートパソコンを貸し出すと高確率で壊す.小中学生ならかなりの割合で壊すはずだ.いじめ問題だってある.いじめられる子のタブレットは,盗まれたり壊されたりする可能性が相当に高い.そのようなとき,学校が代替機を無償で貸し出せないようであれば,デジタル教科書を導入すべきでない.それこそ貧富の差が教育格差を生む.

さらには,以下のツイートにもあるように充電の問題がある.

https://twitter.com/taisho__/status/1370890519182602242

学校で1日6時間,授業でタブレットを使うのなら,生徒たちは毎朝それを満充電にして学校へ持って行かなければならない.35人のクラスがあったら,毎日いったい何人の生徒が充電を忘れて来るか.普通の公立小学校でクラス全員が充電を忘れずに満充電のタブレットを持ってくる日は1年に何回あるか.そのことを考えれば,学校の机に一つずつコンセントをつけて,充電しながら授業を受けられる設備を作るべきだろう.だから学校の電気代もかかる.

つまり,代替ダブレットも教室の改修費も含めて,学校の予算を大幅に増やさなければやっていけないのは目に見えている.そうした見通しを"有識者"会議の有識者達は持っているのだろうか.そして,文科省のお役人達はそのような問題が表面化したとき,自治体に問題を丸投げせずに,自ら問題を解決するつもりはあるのだろうか.