霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

ハマスをテロ組織とよぶこと

5月20日,イスラエルハマスの紛争が停戦合意した.だが,過去の紛争を見ると両者の停戦合意はそう簡単には守られず,新聞でよく使われる紋切り型の言葉を使えば,予断が許さない.

 

Iiyama

ところで,日本のマスコミや保守系の政治家,評論家たちは,テロやテロ組織という言葉を,何の注釈もつけず,ためらいも見せずに口にすることが多い.我々自由主義社会の平和な日常と安定を脅かすあらゆる暴力は「テロ」であって,「テロ」といえば問答無用,一刀両断に切り捨ててよいと言わんばかりだ.最近の例で言えば,中山防衛副大臣が「私達の心はイスラエルと共にあります」と悪びれずもせずにツイートしてそのお気軽さで非難されたが,そのツイート内で「イスラエルにはテロリストから自国を守る権利があります」と述べた.また,自称イスラム思想研究者の飯山陽は中山防衛副大臣を擁護するブログの中で,「ハマスはテロ組織」だからイスラエルは国民と国土を自衛する権利があると主張する.

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210521/k10013043041000.html

https://note.com/iiyamaakari/n/nb694907826bc

 

Netanyahu

テロリストという言葉は,国の支配者たちが自分の統治に抵抗する者たちを指して使うことが多い.例を挙げれば,イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ解放運動を行うハマスに対して,トルコのエルドアン大統領がクルド族の独立運動に対して,ロシアのプーチン大統領チェチェン独立運動に対して,中国の習近平チベット族,ウィグル族,香港の民主化独立運動に対して,ミャンマー軍部がカチン族やロヒンギャ等の少数民族に対して使う.これらの例では,暴力的弾圧と暴力的抵抗がセットになっていて,弾圧する側が抵抗者をテロリストと呼ぶ.ただし,個々の例にはそれぞれ個別の事情があるから,今日はパレスチナハマスについてテロリストと呼ぶことが適切なのかについて考えてみたい.

https://twitter.com/gloomydeaf/status/1392769349300088832

 

Hamas

ハマスイスラム主義を掲げるパレスチナの一組織で,イスラエルを国家としては認めず,パレスチナ国家樹立を目指す政党である.20世紀にはPLOパレスチナ解放機構)がパレスチナ自治政府を代表する勢力であったが,PLOアラファト議長イスラエルとの共存を目指すようになってから,強硬派のハマスが支持を伸ばした.パレスチナ地方議会選挙(2004年)や評議会選挙(2006年)で過半数を占めたことを見ると,一般のパレスチナ人から支持されたといってよいだろう.今ではハマスパレスチナガザ地区を実効支配しており,今回の紛争でイスラエル軍と戦っているのもハマスである.

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B9

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22996

 

Palestine

念のため背景を簡単に補足しておこう.パレスチナは第2次世界対戦直後まではパレスチナ人の土地であったが,米国と英国を中心にした国際社会がホロコーストで悲惨な目にあったユダヤ人のため,この地に新国家としてのイスラエルを作った.2000年前までパレスチナユダヤ人の土地だったからである.イスラエルが建国されたのは1948年5月15日であるが,この日は2000年間その地に住んでいたパレスチナ人が強制的にその地を追われた「ナクバの悲劇」の日でもある.

 

bomming

ハマスは日本を含む先進諸国から「テロ組織」とされているが,貧困層への教育や医療,福祉事業など,パレスチナ人のための社会活動を行って支持を広げた.その地道な活動がガザ地区での実効支配につながっているという.一方で,上述のようにイスラエル国家を認めず,武力でパレスチナの地を取り戻そうともしている.イスラエルに対して,ロケット攻撃,自爆テロ,要人暗殺などの暴力行為も行う.それが理由で,イスラエルだけでなく,米国,EU,日本がハマスを「テロ組織」と指定しているのだ.

 

De Gaulle

さて,ハマスを「テロ組織」として非難することは公正だろうか.かつて,第2次世界大戦時,ヒトラーのドイツに占領されたフランスでレジスタンス運動があった.暴力で不当に占領された土地を取り戻すために暴力で抵抗するという点で同じだ.ではそのレジスタンス運動をひきいた者や参加したもの − 例えば,後の18代フランス大統領ド・ゴール − はテロリストか.ミャンマーのカチン族はロヒンギャはどうか.中国に対するチベットの抵抗運動,南ベトナムでのベトコンの戦い,キューバでのチェ・ゲバラ.具体的な事情はそれぞれ違うが,彼らをテロリストと切って捨てることは妥当なのか.一般論として暴力が悪であるとしても,暴力により占領・支配するものに対する暴力的抵抗をテロといって非難することは正義か.仮定の話だが,中国が台湾に軍事侵攻し暴力的に支配したとして,もし台湾で暴力的な抵抗運動が起きたら彼らをテロリストと呼ぶことには同意できないだろう.

 

Intefadah

「テロ攻撃」という言葉は非対称の戦いにおける強者側が使う.圧倒的な強者だ.かつて「テロ」という言葉をひんぱんに使った者たちを思い出してみよう.ネタニヤフ,エルドアンプーチン習近平,ブッシュ.いかにも怪しげな公正の「コ」の字も感じられない面々だ.一方で彼らの暴力 − 彼らが命じた軍事行動・鎮圧行動で殺されたものの数を想像してみよう − は「圧政」という言葉に変換され,隠され,和らげられる.その共犯者はマスコミだ.大手マスコミは強者側の暴力を「圧政」という言葉で和らげて報道する一方,弱者側の抵抗を「暴力」あるいは強者と一緒に「テロ」と呼ぶ.

 

unsymmetry

イスラエルパレスチナの戦いも非対称だ.力が圧倒的に違う.パレスチナの青年が石を投げればイスラエル兵士は実弾を撃つ.ハマスがロケット砲を撃ってもその90%は迎撃される.そしてイスラエルは大規模な爆撃で報復する.もちろん死傷者数も完全に非対称.圧倒的にパレスチナ側のほうが多いのだ.

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/25-42.php

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65487

 

Intefadah2

イスラエル占領下におけるパレスチナ人の苦境は誰もが知っている.それは圧政などという生易しい話では済まない.ガザ地区などは「天井のない監獄」と呼ばれている.ガザの住民全員が監獄に入れられているというたとえだ.

https://jammin.co.jp/charity_list/180326-ccp/

https://www.tokyo-np.co.jp/article/58017

https://www.asahi.com/articles/ASP5P5S13P5NUHBI00J.html

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%A4%A9%E4%BA%95%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%84%E7%9B%A3%E7%8D%84/

 

私は,ネタニヤフ首相に率いられるイスラエルという国家 - いくつもの国連決議を無視している - は,北朝鮮に次ぐほどのデタラメな無法国家だと思う.