霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

新聞を読まなければ情報を得られない.新聞を読めば誤った情報を与えられる.

 

僕らの年代の多くはそうだったと思うのだが,子供の頃から新聞を読めと言われて育った.小学生の頃は4コマ漫画,スポーツ,将棋欄を見るだけだったが,しだいに三面記事を読むようになり,成長するにつれ家庭欄や外報欄,高校に入る頃には一面から一通り,毎日記事を眺めるようになっていた.中学・高校時代は学校からの帰宅後に読んでいたのだが,大学生になると朝食後に1時間,新聞を読んでから大学にでかける毎日になった.当時の私にとっては,授業よりFM放送を聞きながら新聞を読むほうが大切な時間だったのだ.

 家で読む新聞は朝日だった.自動車総連傘下の労働組合に所属する工場労働者だった父は,選挙になると組合の指示のもと民社党(民主社会党)の支援をしていたのだが,少なくとも1953年,日産争議で総評系の組合が会社に敗北するまでは社会党支持であったと思う(日産争議の話題を振っても父は涙ぐんだまま話をすることはなかった).そのうえ母が社会党支持の家庭に育ったガチガチの社会党支持者だったこともあって,我が家での新聞は朝日一択だったのだろう.

 そのような家庭だったから私が読む新聞も子供時代から今に至るまで朝日.最初は単に読み慣れた新聞というだけだったが,そのうち右翼的な産経新聞が嫌いになり,社主の振る舞いや自民党機関紙ぶりが鼻につく読売新聞を避け,日経の一面を見て世の中で大切なものは経済だけじゃないなどと思ううち,全国紙の選択肢はどんどん狭まり,朝日新聞の購読が続いてきた.読売や産経や文藝春秋週刊新潮の朝日叩きを見ると,そのレベルの低さと目くそ鼻くそを笑う姿に呆れていた.

 だがこの10年ほど,私は朝日新聞毎日新聞,さらにはテレビも含めて,主要メディアに対する信頼をすっかり失ってしまった.マーク・トウェインの有名な言葉,

 

  新聞を読まなければ情報を得られない.新聞を読めば誤った情報を与えられる.

 

が,しみじみ実感として感じられるようになったのだ.

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 きっかけは何だったろう.記憶はおぼろだが,おそらく2012年12月,民主党政権野田佳彦内閣)から自民党政権安倍晋三内閣)に変わった後のメディアの報道ぶりだったように思う.民主党政権末期は,民主党政治の何もかもがメディアに批判されていたと思うのだが,自民党政権に代わった途端,変わっていない政策に対してもメディアの批判がピタリと止んだのだ.全くとは言わぬまでも,嵐のような批判が突然小雨程度になった.消費増税も,米軍基地の辺野古移転も,オスプレイの沖縄基地配備も.これらの政策で民主党政権はかまびすしいほどの批判をメディアから浴びていたが,自民党政権になるとそれらに対する批判はほとんど報道されなくなった.

 変わらぬ政策であるのにあまりにも違うメディアの態度.その激しい落差に自分の感覚が信じられず,家族に確認をしてみたのだが,家族も全く同じように感じていた.長年読んでいた朝日新聞ですらそうなのだから,メディアに対する私の信頼が崩れていくようだった.

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 自民党政権が始まった後に安倍晋三が言い出した「悪夢のような民主党政権」の報道ぶりもひどかった.このフレーズは,(おそらく電通が作り)安倍晋三が国民に刷り込もうとしたイメージ戦略なのだろうが,メディアは本当に悪夢だったのかの検証もせず,せいぜい思いつきの例を1つか2つ挙げるだけで無批判にこのフレーズを垂れ流した.フクシマ原発事故についても,コトの本質や判断の妥当性を吟味することよりも,当時の菅直人首相の言動をただ悪意で喧伝する安倍晋三の言葉を垂れ流し続けた.

 

 民主党政権はそこまでひどかったのか? 安倍政権と比べてみると…

 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88224

 

 2012年から2020年の安倍政権下で報道機関としてのメディアは劣化し続けた.もちろん,朝日新聞毎日新聞が安倍政権の暴走を全く批判しなかったわけではない.安全保障法制や共謀罪についてまともな議論もせずに数の力で押しきったこと,反対者の言葉に耳を貸すどころか敵を作って国民の分断を煽ったこと,モリカケサクラ(森友・加計・桜を見る会)に見る税金使用の公私混同,検察総長や内閣法制局長官さらにはNHK会長や経営委員への非常識な人事介入については,民主主義を揺るがすものとして大手メディアも批判をした.

 

 解釈変更は「できません」 2度拒み、長官は代えられた

 https://www.asahi.com/articles/ASP165W7XND1UTFK014.html

 ありえない手口で首相が"お友達"を検察トップに!

 https://wpb.shueisha.co.jp/news/politics/2020/05/12/111283/

 籾井勝人「新会長」で進む『安倍さまのNHK

 https://www.huffingtonpost.jp/hiroaki-mizushima/nhk_3_b_4483447.html

 NHK経営委員に仰天「安倍人事」 

 https://www.j-cast.com/2013/10/25187271.html?p=all

 

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だが,メディア幹部が安倍晋三と仲良くお食事をし,官邸の圧力でキャスターや解説者を何人も降板させ,逮捕状を撤回してまで隠蔽した首相のお友達の強姦犯罪を世界の一流紙がこぞって報道するなかで日本メディアは黙り込んだ,等々を考えると,首相や官邸が本気で圧力をかければ,日本のメディアは抵抗せずに黙るだろうことがよくわかる.厚労省国交省の統計不正についてメディアは大きく報じたが,GDPの数値が大きくなるよう算出方法を変えてGDPが増えた増えたとアベノミクスを宣伝する安倍晋三を正面から批判することはしない.

 

 安倍政権の圧力で降板、NHK国谷裕子

 https://lite-ra.com/2016/03/post-2078.html

 「統計偽装国家」日本が中国を全然笑えない現実

 https://toyokeizai.net/articles/-/264805?page=2

 

 これらは権力に都合の悪い事実をメディアが『報道しないだけ』である.『報道しない』『言わない』も文脈によっては嘘と全く同等な効果をもたらす悪意となることをメディアも自覚しているだろうが,昨今のメディアの不誠実はそれだけではない.より重要な不誠実は,メディアが積極的に権力の流すフェイク(事実に反すること,または真偽不明なことを事実のように思わせる情報)の拡散に協力している点である.科学的/社会的に真偽不明な事柄について,あるときは正しいと証明されてないからデマといい,あるときは誤りが証明されてないから否定するのはデマと強弁する.恣意的に真偽証明の責任を使い分け,常に証明責任の不要な側に自らを置き,権力に都合の良い情報を流して世論を導こうとする.それは『デマに騙されるな』という言葉によって官製デマを信じさせようとする行為である.

 例をあげよう.以下は,主要メディアが必ずしも明示的に主張しているわけではないかもしれないが,その言動・振る舞いにより,読者・視聴者にそう思わせている事柄である.

 

1) プーチンの主張 − ウクライナ東部でロシア系住民が虐殺されてきた,アゾフ連隊はネオナチである − は嘘である

2) 新型コロナの予防・治療にイベルメクチンは効果がない

3) 新型コロナワクチンに,一般人が心配するほどのリスクはない

4) 新型コロナウィルスは,自然由来である/人工的に作られたものでない

5) 二酸化炭素の増加を放置すると人類は危機に陥る

6) コレステロールや血圧は,検診で異常値が出たら医者に行って治療すべき

7) 長生きしたければ,ガン検診をして早期発見・早期治療をすべき

 

程度の差はあれ,ある程度の知識を持って誠実に考えれば,これらはどれも100%正しいと断定できるものではないはずだが,これらを否定すると世間では変人とされるか,ポリティカル・コレクトネスに欠ける人間と思われかねない.そのような社会状況にしてしまった責任は,明らかにメディア(と御用学者)にあるといっていい.

 いずれにしても,今の社会状況でこれらに疑問を投げかけるには(メディアによって不当に証明責任を押し付けられてしまったため)一つひとつきちんと理由を述べる必要があるが,どれも簡単に説明できることではない.ここでは1)のみについて述べることにするが,その前に2)から7)までについて簡単にコメントしておく.

2)についてはFLCCC (Front Line Covid-19 Critical Care Alliance)のサイトが詳しい.世界中のイベルメクチンの学術研究,臨床研究,治療結果について信頼できる最新情報を提供している.

 https://covid19criticalcare.com/ja/

3)については,分子生物学・免疫学が専門の荒川央氏の学術的知見に基づく数々の考察が誠実だと思う.

 https://note.com/info_shinkoro/n/n0ded21b4f15c

4) 新型コロナが流行し始めた2020年,人工ウィルス説に対してメディアは「フェイクキャンペーン」を張った.有名科学者たちの意見を受けたキャンペーンではあったが,それは決して科学的根拠に基づく見解ではなく,西欧科学者の常識/研究者倫理に基づく個人的意見でしかなかった.だが偶然とは考えられないほどの,十分すぎる以上の状況証拠が集まっているのは事実で,米政府が公式に人工ウィルス説の検証を始めるとメディアは黙りこくった.米政府は結局「証拠不十分でわからない」と結論をだしたが,メディアは自らが始めたフェイクキャンペーンを忘れたふりをしている.

5) は,数多くの科学者・研究者・技術者が疑わしいとし様々な議論を展開しているが,主要メディアはIPCC側の見解以外は報道しない.数多くのサイトがあるが,キャノングローバル戦略研究所の杉山大志氏の説明がわかりやすい.

 https://cigs.canon/energy/

二酸化炭素原因説についての疑問は以下が参考になるかもしれない.

 http://kjs.nagaokaut.ac.jp/yamada/info/globalwarming.pdf

6)と7)は非常に多くの記事や本,ホームページがあるが,医薬業界や検診業界の浮沈がかかる問題であるため,そうした職業人の大半はほぼ間違いなく6), 7)を支持する.だが,これらを否定する学術論文も有名医学雑誌に数多く出ている.

 http://kjs.nagaokaut.ac.jp/yamada/info/science.pdf

 

さて,1)について手短にまとめよう.

kotegawa

 2014年2月にウクライナでマイダン革命が起き,親西欧の政権が誕生した.それがきっかけでウクライナ東部のロシア系住民が自決権を要求し,それ以来8年以上に渡ってウクライナ東部で戦闘が続いてきた.3月に起きたロシアによるクリミア半島併合もマイダン革命がきっかけである.

 2014年当時に,小手川大助(キャノングローバル戦略研究所)が起きた事実,その背景について詳細に分析している.マイダン革命のきっかけとなったデモは欧米政府(と諜報機関)が深く関与したものであったが,デモが暴力化し多数の死者(警察官とデモ隊合わせて70 - 100人)が出たのはウクライナの極右暴力集団/ネオナチの行為によると結論している.その後5月に,オデッサの悲劇(ロシア系住民48人前後が殺された事件)が起きたが,これもネオナチによるものとされる.さらに革命後に成立した政権は"ネオナチ政権"との形容が適切に思えるほどの陣容であった.小手川氏は,財務省内閣官房審議官,国際通貨基金日本政府代表理事等を歴任した人物で,現在は大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長である.

 

小手川大助(キャノングローバル戦略研究所)

 『ウクライナ問題について』 2014年 3月-5月

その1)https://cigs.canon/article/20140320_2453.html

その2)https://cigs.canon/article/20140410_2494.html

その3)https://cigs.canon/article/20140513_2563.html

その4)https://cigs.canon/article/20140515_2572.html

 

以下の映画『ウクライナ・オン・ファイアー 』はマイダン革命に関するドキュメンタリー映画で,上記の『ウクライナ問題について』とほぼ同様の結論を含む.両者の主要部分ががほとんど一致していることで,それぞれの内容の信憑性は非常に高いと感じる。蛇足だが,この映画を見ていると大統領を追われたヤヌコーヴィチが可愛そうになってくる.

 

イゴール・ロパトノク監督 2016年  『ウクライナ・オン・ファイアー 』

 

次は,有名映画監督オリバー・ストーンによるプーチンのインタビュー映画である.プーチンがひたすらに語る映画だが,質問に対して戸惑うこともなく率直に答えている.つまり,その場でつじつまを合わせる嘘を言っているようには見えない.上記2つとも矛盾はなく,プーチンが語ることはすべて嘘,と決めつける日本のメディアがあやしく見えてくる.

 

オリバー・ストーン監督  『オリバー・ストーン オン プーチン』2017年

エピソード1)

   

エピソード2)

   

エピソード3)

   

エピソード4)

   

 

次の映画は,フランスのジャーナリストによるウクライナ東部の町『ドンバス』のドキュメンタリー.ロシア系住民が追い詰められた様子や虐殺された様子が語られるが,ウクライナ東部でのウクライナ側の主力はアゾフ連隊(大隊)であるとの小手川の指摘を考えれば,アゾフ大隊(ネオナチ)にロシア系住民が虐殺されたのは事実と想定できる.

 

アンヌ=ロール・ボネル監督  『ドンバス 2016』

https://www.youtube.com/watch?v=ln8goeR5Rs4

 

 

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さて,おまけだが,以下は,公安調査庁のHPである.

https://www.moj.go.jp/psia/ITH/topics/column_03.html

 

その中ほどに『国際的につながる極右過激主義者』,『海外の紛争,イベント等への参加』との表題を持つ部分がある.その部分は,2022年4月4日には以下のようであった.

2022/04/04時点での記述

だが,2022年4月18日には次のように変更されていた.つまり,公安調査庁は『ウクライナ愛国者を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した』を含む段落を丸ごと削除してしまったのだ.

2022/04/18時点での記述

4月4日から18日までの2週間の間に何があったかを考えてみると,テレビのニュース・ワイドショーにウクライナ軍の主力あるいは精鋭部隊として「アゾフ連隊」という名前が出始め,同時にネット上にアゾフ連隊はネオナチとの投稿が出始めた頃だ.事の詳細は分からないが,公安調査庁が自ら気づいたか,外部に指摘されたかによって「アゾフ大隊」のクレンジング作業が行われたのだろう.

 

他の国は知らないが,日本社会ではこのように,権力とそれに従うマスコミ,従順な国民によって誰も彼もが,権力の望む見解に従うよう強制されていく.しかも戦後80年近く,権力者たちは好戦的なアングロサクソン国家の下僕だ.将来日本が他国に侵略されたら,日本と軍事同盟を結んでいる米国は言うだろう.『君たちに正義がある.君たちを支持する.我々は戦わないが,同盟国として最大限の支援をする.ほしい武器はいくらでも援助する.戦え! 戦え! 戦え! 決して降伏するな.最後の1兵まで民主主義のため,自由のために戦うんだ.』

 

そして,日本だけが荒廃する.