霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

日本は絶対平和への決意を捨てた

このところ,ほとんどの日本人が「二度と戦争はしない」という決意を捨てようとしている,あるいは忘れようとしていると感じる.「一人前の国になる」とか「友達が攻撃されているときに見捨てろというのか」などという素朴な感情を揺さぶるポピュリスト的言葉に騙され,戦後ずっと憲法違反とされてきた集団的自衛権を勝手に覆す当時の首相に,大多数の日本国民は怒りを示さなかった.ずさんなミサイル防衛計画の失敗で膨大な税金を無駄遣いした政府が,唐突に敵地攻撃能力(反撃能力)を持つのが一番のミサイル防衛と言い出しても,何の疑問も持たない.ウクライナ戦争を都合よく利用して防衛予算を倍増しようとする自民党に対しても賛成する国民が多い.

 

ウクライナ戦争は,米国の民主党ネオコンオバマ,バイデン,ヒラリー・クリントン等)と現地の極右暴力勢力とが協力して起こした非合法クーデター(2014年)をきっかけとする内戦から始まった.クーデター後にできた親米・親EU政権は極右暴力勢力を取り込み,東部ドンバス地方のロシア系自国民を弾圧(軍隊が自国民を攻撃)し続けた.その弾圧の激化がロシアの介入を招いた.プーチンは,ドンバスのロシア系住民を見捨てるか,西側社会を敵に回すかの踏み絵を踏まされたのだ.

資料は探せばたくさんあるが,2014年当時の状況は記録映像「バラの棘(Roses Have Thorns - Casualties of the Ukrainian Revolution)」が詳しい.1時間前後の動画が17部まである大作だ(まだ第8部までしか見てないが,第1部のEURO-MAIDAN & CRIMEAと第6部のTHE ODESSA MASSACRE は必見).

 

https://www.watchdogmediainstitute.com/p/blog-page.html

 

2022年のロシア侵攻前後の状況については,元スイス軍情報将校で元NATO安全アドバイザー,さらには元国連平和活動局であるJACQUES BAUDの以下の記事が詳しい.

 

1. https://mronline.org/2022/04/10/the-military-situation-in-the-ukraine/

2. https://www.thepostil.com/the-military-situation-in-the-ukraine-an-update/

3. https://www.thepostil.com/our-interview-with-jacques-baud/

1.の日本語訳 https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

 

話を元に戻そう.

かつての自民党保守本流軽武装,現憲法遵守であった.しかし自民党全体が右側に,あるいはタカ派に少しずつ変節するにつれて,日本国民も羊のようにそれに従っている.「他国に侵略されたらどうする?」「ウクライナのようになったら困るだろ?」 そう言われると,ごく単純に「防衛を固めなければ..」「防衛費が増えてもしかたがない」などと言う.

だけど,誰が日本を侵略すると思う? 北朝鮮? 北朝鮮に単独で日本を侵略できる能力はないし,侵略する意味もない.北朝鮮が(日本に駐留している米軍から)攻撃されるという危険さえ感じなければ,米軍による怒涛の仕返しを覚悟してまで日本にミサイルを打ち込む意味もない.そんなこと誰だってわかる.北朝鮮に日本侵略のメリットはないし,中国が同意もしくは参戦しなければできるわけがない.仮に侵略があるとすれば中国が同意する場合に限られるが,侵略したいと思っているのは北朝鮮ではなく,中国の方だろう.

中国が日本侵略の意図を持つとすれば,その理由は日本から米国を追い出したいということにつきる.誰からも邪魔をされずに太平洋に出ていきたいのだ.実際に行動を起こすとすれば,1)米国が直接に兵をださないと信じる場合か,2)米国が直接戦争に参加しても中国が勝つと確信した場合,しかない.

1)の場合,日本が抗戦するなら,中国(and北朝鮮)と日本の戦争になるだろう.米国は武器等の支援をするだけになる.戦場は日本だ.悲惨な戦いになるだろう.戦争になって,戦場の市民が巻き込まれないなんて机上の空論にすぎない.市民が一方の戦闘員に何らかの支援をすれば,それは他方から見れば敵対行為だ.敵性市民が市民の10%でしかなく,残りの90%が完全な中立であったとしても,相手には区別がつかない.市民全体が敵とみなされる.

まして,第2次世界大戦時,中国の民間人死者数は1000万人だ.ほとんどが日本軍に殺されたと言っていいだろうが,戦争になれば,中国軍の兵隊はそれを思い出すだろう.自国が蹂躙された過去の想いで憎しみが倍増すると想像される.過去の戦争が次の戦争の憎しみに油を注ぐのだ.第二次大戦時の日本の民間人犠牲者は80万人だったが,それをはるかに上回る犠牲者の出る可能性が高いだろう.ちなみに,第二次大戦時に本国で地上戦が行われた国々 - ドイツ,ポーランドソ連,中国 - の犠牲者数は日本の犠牲数者よりはるかに大きかった.

 

http://honkawa2.sakura.ne.jp/5227.html

 

2)の場合は,中国・北朝鮮 v.s. 日本・米国の戦いになるが,核戦争を防ぐため,中国と米国の全面戦争ではなく,日本を戦場とする局地戦 - 日本にとっては全面戦争 - になるだろう.もちろん,1)の場合より悲惨な戦場になる.

戦いは勝つか負けるかわからないが,中国が米国の支援があっても勝てる,または米国が参戦しても勝てると判断して戦争を始めるなら,そうなる可能性が高い.その場合,日本は多くの国民の命を失うだけでなく,国土は荒廃し,その上,国家主権も失うことになる.最悪の中の最悪で終わる可能性が高いのだ.

 

意思決定という研究分野がある.経済学,心理学,コンピュータ科学の境界領域といえる研究分野だが,その世界で最もオーソドックスな意思決定の方法の一つに,MAX-MIN戦略がある.いくつかの選択肢があるとき,それぞれの選択肢を選んだときに起こり得る最悪(Minimum)の状態を想定する.そして,それらの最悪な状態の中で最もまし/良く(Maximum)なる選択肢を選ぶというものだ.最悪な場合でも最もましなものを選びましょうという戦略だ.ボードゲームの基本戦略と言ってもよい.その戦略に従えば,侵略されたときに取るべき手は,明らかに「戦わない」だ.戦わなければ,最悪でも戦死者はゼロだ.国土も荒廃しない.失うのは国家主権だけ.

 

昭和20年代と30年代,第二次大戦後の日本で「二度と戦争しない」と誓っていた多くの日本人が考えていたのは,「二度と侵略戦争を起こさない」という意味だけではない.「何があっても戦わない」「他国が侵略してきても戦わない」という切実な思いだったのだ.憲法自衛戦争を否定しないとか,自衛隊は軍隊ではないとかの言葉遊びはやめてもらいたい.

 

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや(寺山修司

 

私たちは国家のために生きているわけではない.