霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(4)

1年半ほど前に定年を迎え,それまでざっとしか見なかったニュースを暇に任せてじっくり見るようになった.するとニュース報道の粗が信じられないくらい次々と見えてくる.コロナウィルス起源やコロナワクチン安全性,治療薬イベルメクチン,そしてウクライナ戦争に関する様々な報道や解説.それらを見たり読んだりしていると多くの疑問が湧いてくるのだが,ホントかな程度の軽い気持ちで調べてみると,小さな疑問が次々と大きな不信感へと変わっていくのだ.もちろん,現役時代には研究者の端くれだったものとして,たまたま見つけたネット情報をそのまま信じる訳ではない.オリジナル情報源,情報源の信頼性,関連記事や論文などをひととおり確認し,さらには情報提示方法や文章記述などのメタ情報,自分自身の経験を総合した上で,どの程度信じてよいかを判断している.

不審感の最大の原因は,出るのが当然と思える疑問に対して,当局や"専門家"がまったく真面目に答えようとしていないことだ.当たり前の疑問に対して納得できる理由を示して説明することはほとんどない.おざなりか,子供だましか,筋の通らない説明でも,あればまだましな方.説明もなしにそれは嘘,フェイクです,気をつけましょう,のような話に出くわすと馬鹿にするなと怒りが湧いてくる.

 

ウクライナ戦争に関して,ロシア側とウクライナ側の言い分のどちらが正しいかを知りたいのに,メディアはまともに説明をしない.キエフ近郊のBuchaでの虐殺の実行者はロシア軍か,ウクライナ軍かの問題を例に,そのひどさを説明しよう.

当初ロシア軍の犯行として示された証拠は,ウクライナが提示した死体の写真と,米軍が提供した人工衛星写真だった.初めてそれを聞いたときには2つの疑問が頭に浮かんだ.1つは,激戦の中で必死の思いで退却した状況でなかったにもかかわらず,ロシア軍は自ら虐殺した数々の死体をそのまま放置していくだろうか,である.2つめは町中の死体の写真と人工衛星写真が証拠になりえるのか,である.米国は人工衛星写真を使って世界中の首脳を騙し,戦争を始めた過去がある(イラク戦争).15歳の少女に15人の新生児が虐殺されたと偽証をさせ,戦争を始めたこともある(湾岸戦争).その上,証拠として提示された写真の捏造は難しくはない.というより,捏造する必要すらない.死体は現実にそこにあるものを写せばよいし,人工衛星写真については,撮った日付をごまかせばよいだけなのだ.

 

ロシア側に立つもの,あるいはウクライナの言い分に疑問を持つ者たちは,具体的な反論をあげる.ロシア軍の撤退からウクライナ軍の進行,死体発見までの一連の出来事の時間と順序に不自然な点が多いことや,死体の写真の不自然さ(ロシア側であることを示す白布アームバンドを着用してる、ロシアからの援助品を持っている,ロシア侵攻から退却までだいぶ時間が経っていたのに死体が新しい等)に加え,最初に町に入ったアゾフ大隊の記録動画もあった.その短い動画には,Buchaに入ったアゾフ大隊の隊員の「黄色アームバンドをつけてない住民は撃ってもいいか」,「もちろん」という会話が記録されていた(この動画は、あっという間にYoutubeが削除した).だが,これらの反論に対するウクライナや欧米からの納得できる再反論や答えはほとんどない.ただニセ情報と切って捨てるだけである.

 

これでは,どちらの言い分が正しいかを判断することは誰にもできない.ウクライナあるいは西側諸国は少なくとも死体発見日の不自然さや白布アームバンド等の疑問について説明すべきだし,国が説明しなければ,メディアがその不自然さを当局に問い詰めるべきだろう.しかしメディアはそれをせず,「ロシアの犯行を証言する新たな目撃者が見つかった!」などと,簡単に捏造できそうな目撃者証言を流したりする.

そうした西側メディアの子供だまし報道を見ていると,どのような内容であろうと,米欧ウクライナの情報はすべて正しく,ロシア発の情報はすべて嘘,そう決めつけて報道すると決まっているようにしか思えない.メディアは毎日,そうした怪しい言説を垂れ流し続けている.

 

近現代の歴史を見れば,戦前日本や独裁国家だけでなく,米国・欧州を含む民主主義国も,戦争時には自国が善,敵国を悪とするプロパガンダ,つまり嘘やデマを流してきた.ベトナムパレスチナイラク、イラン、リビア....戦争当事国のメディアも国の発表をほとんどそのまま垂れ流す.だから,戦争当事国やその仲間の一方のみを信じていては,事実を知ることはできない.

 

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今回は,ウクライナ戦争における多くの報道の中でも,世界的に大きな注目を集めたマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の攻防戦の中で救出された民間人のインタビュー記事を取り上げる.

 

まずは,マリウポリという都市の概要,マリウポリおよびアゾフスタリ製鉄所の攻防戦の概略から述べよう.

 

マリウポリは,ウクライナ東部のドンバス地方,ドネツク州にある人口10万以上の都市で,クリミア半島の東の海,アゾフ海に面している.ドンバス地方にはドネツク州とルガンスク州の2つの州があり(どちらの州も今は独立宣言をしていて,ドネツク民共和国,ルガンスク人民共和国と名乗っている),ウィキペディア(ドンバス)によれば,ロシア語を母語とする者はドンバス州で74.9%,ルガンスク州で68.8%である。なお,2001年時点で,ロシア人の割合はドネツィクで38%,ルガンスクで39%だったことは注目に値する.つまり,ドンバス住民の約7割がロシア語を母語とするだけでなく,ロシア国籍を持つものも4割近くいたのだ.ウクライナはそのようなドンバスを敵視して,2014年以来,8年以上も攻撃を続けているのだ.

 

ロシアのマリウポリ攻撃は,ウクライナに侵攻した2月24日から始まった.市街地での戦闘は4月半ばまで続き,4月16日にはロシア国防省が市街からウクライナ軍を「完全に排除した」と発表した.ただし,悪名高いアゾフ大隊を中心とするウクライナ軍約2000名が,多くの住民とともにアゾフスタリ製鉄所に籠城,徹底抗戦を表明し,戦闘は5月半ばまで続いた。

約1ヶ月のアゾフスタリ製鉄所での攻防戦において,ロシアは製鉄所内の住民を避難させるための人道回廊設置を提案した.しかし,この人道回廊がなかなか機能しなかったのだ.ウクライナはロシアが砲撃を止めないから避難ができないといい,ロシアはアゾフ大隊が住民を人間の盾にして避難させないと主張した.

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/84c86ce761d2cfa65271184d8f002d5769079f00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25CI80V20C22A4000000/
https://parstoday.com/ja/news/world-i96770

 

そのような中で,5月1日,国連と国際赤十字社が仲介する形で46人の住民が避難した.その中に,ナターリア・ウスマノワ(Natalia Usmnova)さんがいたのだ.なお,住民全員の避難が完了したのは7日だったという.

 

https://www.asahi.com/articles/ASQ516DX8Q51UHBI01J.html
https://www.bbc.com/japanese/61368319

 

ロイターのインタビューに対し,ウスマノワさんは,避難中の砲撃の激しさと恐怖を語った.人道回廊の設置と避難についての情報を知ってはいたが,外に出ることはできなかったとも語った.そしてビデオは,ウクライナの主張に合わせるように,ロシアの砲撃が怖くて出られなかったかのような印象を与える場面で終わる(次の記事内の動画の黄色いジャケットを着た女性).

 

https://www.reuters.com/world/europe/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-terror-bunkers-azovstal-2022-05-01/

 

ウスマノワさんは米NBCや英ガーディアンのビデオにも登場し,AOLやYahooのニュース記事では語った内容が本人の発言として紹介されている.ほぼ,ロイターと同じような内容だ.

 

https://www.youtube.com/watch?v=h71tEnXla6A
https://www.theguardian.com/world/2022/may/02/mariupol-evacuee-recounts-terror-in-bunkers-below-azovstal-steelworks
https://www.aol.com/news/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-172704606-160408088.html
https://news.yahoo.com/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-172704606.html

 

ロイター,NBC,ガーディアンのビデオは編集されたものだが,ドイツの週刊誌シュピーゲルは,当初フルビデオを掲載したらしい.だが,以下の記事によると,そのフルビデオは何の説明もなく削除された.

 

https://natyliesbaldwin.com/2022/05/uncensored-video-of-natalia-usmanova-telling-of-her-experience-as-a-civilian-in-the-azovstal-steel-plant-in-mariupol/

 

デイリー・テレグラフニュージーランド)は,シュピーゲルがビデオを削除したのは内容の不一致があったからという.記事内容とウスマノワさんの証言が不一致だったということだろうが,デイリー・テレグラフは証言内容について次のように述べる.

 

『録音の中で、ウスマノバは記者団に対し、アゾフ過激派が2か月間「私たちをバンカーに閉じ込め」、ロシア軍によって確立された人道的回廊を使用して家族が立ち去ることを許可しなかったと語った.』

 

https://dailytelegraph.co.nz/world/top-western-media-outlet-deletes-video-critical-of-ukraine/

 

要は,ロイター,NBC,ガーディンは,ウクライナおよび欧米に都合のよい部分だけを切り取って編集し,ロシアが住民避難を妨げていたかように見せかけていたのだ.

 

さて,シュピーゲルが削除したものと同じかどうかはわからぬが,ロシアメディアによるフルビデオがYoutube上にある.これを見れば,ロイター,NBC,ガーディアンが,いかに不誠実か,どのように嘘を作り出したかがよくわかる.ウスマノフさんは,キエフ政府およびアゾフ大隊を批判しており,解放された後はウクライナ(西部)ではなくロシアに行きたいと述べている.

 

https://youtu.be/DoN4vM7thBo
https://youtu.be/AUylN9_aWz8

 

同じ日に解放された民間人は46人である.ウスマノフさんが西側メディの期待する証言をしないのであれば(それもジャーナリストとしてすべきことではないが),メディアは他の人にインタビューし,期待する内容のインタビューを掲載することもできたであろう.一人のインタビュービデオを切り貼りして真実を捻じ曲げるより,複数の中から都合の良いものを選択するほうが,嘘の罪が軽く感じるだろうからだ.だがそれはできなかった.おそらくは,ほぼ全員がウスマノフさんと同じことを言っていた.つまり事実として,アゾフ大隊が彼らを人間の盾として使っていたからであろう.

 

ところで,同じ嘘をつくにしても,シュピーゲルはビデオ編集はせず,ビデオを削除する方法を選んだ.同じ嘘はついているものの,黒を白に変えるような編集だけはしなかったという意味で,少しマシだったとも思えてくる...しかしそれは,我々がすっかりメディアの嘘に対して慣らされ、不感症になっているからだろう.

 

つづく...