霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(6)

国際人権団体として有名なアムネスティ・インターナショナル(以下、アムネスティと略記)は、世界各地における人権問題を監視し、調査し、人権に関する不正義があれば、その事実を世界に対して広く訴えることを目的とする非政府組織である。ホームページによれば、賛同する個人による寄付等で支えられ、政治的イデオロギー経済的利益、宗教に対し独立して活動する世界最大の国際人権NGOであるとする。

 

https://www.amnesty.org/en/
https://www.amnesty.or.jp/

 

このアムネスティは、その活動の一つとして、世界各地の人権状況のレポートを発表している。ウクライナやロシアに関するレポートもいくつか出ているが、ここでは2021年と2022年に発表された2つのレポートを取り上げる。

 

アムネスティの2021年ウクライナレポート
https://www.amnesty.org/en/location/europe-and-central-asia/ukraine/report-ukraine/

 

アムネスティの2022年ウクライナレポート
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2022/08/ukraine-ukrainian-fighting-tactics-endanger-civilians/

 

2021年(ロシア侵攻前)のリポートでは、その冒頭から、軍人や警察による拷問、ジェンダーに基づく暴力、差別と暴力を主張するグループ(いわゆるネオナチや極右暴力団)による同性愛者やロマへの攻撃、ジャーナリストや人権擁護者への攻撃等が蔓延し、捜査も対策も不十分で、効果のないことが語られる。捜査対象者の人権が法的に守られない問題も指摘される。また、東部のドンバス地方では、ウクライナ軍とドンバス軍(ルガンスク人民共和国軍とドネツク民共和国軍。この時点ではロシア軍は参戦していない)の双方が、国際人道法に違反する行為を行っていると指摘されている。さらにレポートの内容をしっかり読めば、ウクライナの刑事司法は(国会・行政も同様だが)どうしようもなく腐敗していることが読み取れる。

 

さて、今日、この記事で話題にする内容は、2022年8月に発表された2番めのウクライナレポートについてである。このレポートは【ウクライナの戦闘戦術は民間人を危険にさらす】と題され、ウクライナ軍が住宅地、病院、学校などの人口密集地域に軍事基地を数多く設置していることを、いくつかの具体例とともに示し、これがロシア軍の民間人地区への無差別攻撃を招いている、と報告した。アムネスティは、ロシア軍による人口密集地域への無差別攻撃は戦争犯罪であると釘をさしつつも、『人口密集地域内に軍事目標を配置するというウクライナ軍の慣行』は国際法に違反すると指摘する。

 

アムネスティの調査が十分なものであったかどうかはともかく、事実関係に間違いがなければ、真っ当な指摘というほかはなかろう。だが、ウクライナと西側メディア、特に米国メディアはこのレポートに激しく反発した。

 

アムネスティのこのレポートに対する反響を報じた World Socialist Web Siteの記事によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は国民への演説でこの報告書を非難して『「犠牲者」を「侵略者」に変えた』と主張し、ドミトロ・クレバ外相は『現実をゆがめ、加害者と被害者の間に誤った道徳的同等性を引き出し、ロシアの偽情報への取り組みを後押ししている』とツイートした。このウクライナの反応は、アムネスティの報告内容が事実かどうかではなく、ロシアを一方的な加害者とする立場からの反発であることに注意されたい。事実かどうかについて、記事は『ヨーロッパにおける反ロシア戦争プロパガンダで重要な役割を果たしてきたドイツのニュース雑誌シュピーゲルが、金曜の報道で、自身の記者がアムネスティ・インターナショナルと同様の発見をしたことを、かなりしぶしぶながら認めた』と報じている。

 

https://www.wsws.org/en/articles/2022/08/06/dsao-a06.html

 

だが、米国の主要メディアは、ウクライナ政府と同様な感情的な反応に終始していた。2013年ジェフ・ベゾスが設立した持株会社ナッシュ・ホールディングスに買収されて以来、紙面の質がめっきり落ちたワシントン・ポストは、知識不足を顧みずに偏った意見を機関銃のように喋りまくる困った米国人さながらに、三流週刊誌並の感情的な記事を書いている。いかにも事実であるかのように書かれた内容は、これまでワシントン・ポスト自身が報道してきた怪しい"事実"である。

 

https://www.washingtonpost.com/business/amnestys-impartialityplays-to-russias-advantage/2022/08/08/c83ff2be-16d7-11ed-b998-b2ab68f58468_story.html

 

保守系の米雑誌、The National Interest も『ロシアとウクライナが、ロシアが始めた戦争に対して等しく責任があるという誤った印象を与える』と主張する。つまり『とにかく侵略してきたロシアの方が悪いに決まっている』と言いたいらしい。さらには、根拠も示さずに『過去6か月間、ロシアは無差別に民間人地域を砲撃し、病院や人道支援通路を標的に攻撃し、何千人ものウクライナ人を強制的に拘留し、ろ過キャンプを介してロシアに移送し、明らかにウクライナ人捕虜を拷問して処刑した』と、 「一方的な」主張を続ける(”一方的な” という言葉は、日本のメディアがロシアの主張を伝えるときに、付け加える枕詞である)。

 

https://nationalinterest.org/blog/buzz/amnesty-international-gets-it-wrong-ukraine-204048

 

ナショナル・パブリック・ラジオは、アムネスティが報告する『事実』を認めた上で、アムネスティに対する米国メディア・専門家たちの反発を次のように伝える。『市街戦において兵士は民間人からどれくらい離れれば合法的なのか?あまりにも曖昧だ』『ウクライナ人は全員戦争犯罪者であるという暗黙の結論に飛びついた』『ロシアが最初に侵略しなければ、民間人の死者はまったく出なかっただろう』

 

https://www.npr.org/2022/08/06/1116179764/experts-widely-condemn-amnesty-international-report-alleging-ukrainian-war-crime

 

ある行為が違法であるかどうかは、事実を調査・確認し、その周りで起きた文脈や解釈とは独立に、事実に基づいて判断されなければならない。しかし米国のマスコミ人はその原則を全く理解しようとせず、自分が切り取る文脈の中で、行為の評価を恣意的に変える。文脈は、切り取る時間 ーどこからどこまでを考慮するかー によって全くその意味が異なりえる。解釈は、当たり前だが、当人の経験や知識や心の状態によって変わる。ナショナル・パブリック・ラジオの記事のホストとゲストにとっては、2022年2月24日以降のことだけが文脈のようだが、現実としては、ドンバスにおける戦争は、2014年に、ウクライナ政府によって始められた。

 

  ★   ★   ★

 

ウクライナ政府や米国政府・メディアのあからさまな圧力・批判によって、政治的に独立であるはずのアムネスティもビビった。米CNBCの報道によると、アムネスティウクライナ支部責任者オクサナ・ポカルチュクは、問題のレポートの公表に反対だったことを述べ、辞任した。

 

ポカルチュク氏はフェイスブックの声明で、次のように述べた。『侵略者に占領され、国をバラバラに引き裂いている国に住んでいない人は、防衛軍を非難することがどういうことか理解できないだろう』『このような瞬間に、このような文脈で発表される重要な報告書には、戦争の反対側、この戦争を始めた人物に関する情報が含まれていないわけにはいきません』『組織は、ロシアの物語を支持するように聞こえる資料を作成しました。民間人を保護しようとして、この研究は代わりにロシアのプロパガンダのツールになりました。』

 

https://www.cnbc.com/2022/08/06/amnesty-international-report-sparks-furor-resignation-in-ukraine.html

 

感情的にはわからないでもない。だが、客観的にもの事を理解しようとする姿勢を取るならば、彼女はいくつもの大きな間違いをしている。ウクライナ、あるいはウクライナ西部の人々は2022年2月24日以前は被害者ではなく、加害者であった事実を思い出さなければならない。2022年2月24日に戦争が始まったと考えるときの『戦争を始めた人』と、2014年2月のマイダン革命(マイダン暴力クーデター)後に戦争が始まったと考えるときの『戦争を始めた人』は違う。どちらの文脈を採用するかで、『戦争を始めた人』は異なり、そして正義も異なるだろう。その点を理解しないという点で、オクサナ・ポカルチュクは、アムネスティウクライナ支部責任者にはふさわしくない人物だったというしかないだろう。

 

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アムネスティ内部で起きたこの騒ぎ。このまま終わるのであればまだよかった。客観的立場で、世界の人々の人権、一人ひとりの個人の人権を守る立場のアムネスティ。そうであれば、国と国の争い、たとえそれが民主主義国と独裁国家の争いであろうと、国家と国家の闘いに巻き込まれ、一方の肩を持つようなことをすべきではなかった。毅然として中立でいればよかった。民主主義国にも幾分かの不自由や人権弾圧があり、独裁国家にも幾分かの自由と公平さがあるからだ。

 

だが、アムネスティは謝罪をした。「アムネスティ・インターナショナルは、ウクライナ軍の戦闘戦術に関するプレスリリースが引き起こした苦痛と怒りを深く遺憾に思う」と述べた。その上で、レポートについては次のように述べた。


『私たちが訪問した19の町や村すべてで、ウクライナ軍が民間人が住んでいる場所のすぐ隣に位置し、ロシアの火事の危険にさらされている可能性があることを記録した』
『我々は、国際人道法(IHL)の規則に基づいてこの評価を行った。これは、紛争のすべての当事者が、可能な限り、人口密集地域内またはその近くに軍事目標を配置することを避けることを要求している。戦争法は部分的に存在する民間人を保護するためであり、アムネスティ・インターナショナルが各国政府に遵守を求めるのはこのためだ』
『これは、アムネスティ・インターナショナルが、ロシア軍が犯した違反の責任をウクライナ軍に負わせているという意味でも、ウクライナ軍が国内の他の場所で適切な予防措置を講じていないという意味でもない』

 

https://edition.cnn.com/2022/08/08/europe/amnesty-ukraine-military-report-intl/index.html
https://www.theguardian.com/world/2022/aug/07/amnesty-international-ukraine-military-report-civilians

 

アムネスティは、問題のレポートの過ちを認めたわけでも、撤回したわけでもない。報告した事実は、事実として存在したと控えめに主張しつつ、それでも謝罪をしたのだった。

 

https://newkontinent.org/amnesty-internationals-report-criticizing-ukraine-is-dividing-the-rights-group/

 

いったいアムネスティは何に対して謝罪したのか。戦争に巻き込まれ、つらい思いをした西ウクライナの人々の気持ちを傷つけたからか? だとしたら、8年以上キエフ政府にテロリストと呼ばれ、砲撃され、殺されてきたドンバスの人々の気持ちのことは考えないのか。ウクライナ語がうまく話せないからと言って、チンピラたち(ネオナチ、極右暴力団)にポールに縛りつけられたり、脱がされたり、顔を緑に塗られたり、ムチで叩かれたりしてきたロマやユダヤやロシア系住民の気持ちはどうするのか。

 

8月25日の以下の記事のタイトルによると、アムネスティは、ウクライナの報告に対する反発が続く中、報告書の見直しを発表したという。どうやらアムネスティは、西側のプロパガンダと批判に負けたようだ。

 

https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/amnesty-announces-review-as-ukraine-report-backlash-continues/

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(5)

前回も書いたように、国と国とが戦争をすれば、戦争当事国はプロパガンダを流す。それは、独裁国家だけではなく民主主義国家であっても同じだ。国民からの支持を失うと戦争継続が困難になることを考えれば、独裁国家よりも民主主義国家のほうがプロパガンダ(嘘やフェイクや誇張)の必要性が高いだろうということは、容易に想像がつく。直接戦闘に参加せず、軍事支援や経済支援をするだけであっても、多額の税金を使う以上、国民の支持は不可欠であり、そうであればプロパガンダの必要性は増すわけだ。

 

ウクライナ戦争の初期に起きた、ウクライナ東南部マリウポリの産科病院が空爆されたとする事件でも、双方からのプロパガンダ合戦が激しかった。そのようなとき、どちらか一方の公式発表に強くコミットしすぎず、適切な距離とバランスを保って事実を知ろうと努力する姿勢がメディアの質を決めるといってもよいだろう。だが残念ながら、西側メディアのほとんどはそうした姿勢を見せず、私から見れば合格点以下の報道でしかなかった。

 

プロパガンダ合戦が始まったのは3月9日、ロシアがマリウポリの産科病院を「空爆」し、少なくとも17名が負傷したというウクライナ政府の発表だった。その発表をAP通信が世界に配信したのだが、読売新聞のサイトに掲載された動画には、怪我をして担架で運ばれる妊婦や、「空爆」で破壊された病院が撮影されている。

 

https://www.yomiuri.co.jp/stream/article/18977/

 

西側メディアの続報によれば、犠牲者は子ども1人を含む3人が死亡、17人が負傷した。「空爆」があったのは、マリウポリから民間人が避難する人道回廊が設けられ、一時停戦しているはずのときだったという。ウクライナ及び欧米からはロシアに対する激しい非難が起きた。それに対してロシアのラブロフ外相は『患者はいなかった。病院は長年、ウクライナ軍の極右のネオナチ部隊に占拠されていた』と語ったとされるが、多くの西側メディアはそれをロシアの嘘として一蹴した。

 

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000247589.html
https://www.chunichi.co.jp/article/432979

 

その翌日、西側メディアは、爆撃で怪我をした妊婦の一人であるマリアナ・ヴィシェギルスカヤさんが無事に子供を出産したと報道した。ところがそれに対して在英ロシア大使館マリアナさんは嘘の演技をする危機対応俳優(crisis actor)だったとツイートしたのだ。これは西側メディア上でのロシア非難に油を注ぐ形となった。その一方で、ネット上のロシア応援団からは、マリアナさんに対する「妊娠は嘘」等の誹謗中傷も激しかったという。なお、在英ロシア大使館のツイートは、ツイッター社の規則に違反するとして削除されている。

 

https://www.bbc.com/japanese/60718370
https://agora-web.jp/archives/2055533.html
https://www.bbc.com/news/world-europe-60715492
https://nypost.com/2022/03/11/pregnant-ukrainian-blogger-seen-fleeing-maternity-hospital-blast-has-given-birth/
https://www.dailymail.co.uk/news/article-10601967/Trolls-target-pregnant-Ukrainian-beauty-blogger-survived-Mariupol-hospital-attack-abuse.html


さて、事実はどうだったかといえば、なかなかすっきりしない。数日後の3月14日、ニューヨーク・ポストは、出産後のマリアナさんへのインタビュー記事を載せ、危機対応俳優ではなかった(つまり在英ロシア大使館のツイートは嘘または誤り)ことを伝えるが、ロシアによる産科病院への「爆撃」については「それがどのように起こったのか、私たちは知りません。」との発言しか載せていない。

 

https://nypost.com/2022/03/14/pregnant-ukrainian-woman-from-maternity-hospital-dies/

 

また、5月17日の米CBSの記事によると、『BBC とのインタビューで、ヴィシェギルスカヤはロシア当局者を直接批判しなかった。彼女は代わりに、彼女の写真を投稿したジャーナリストが、攻撃が起こったことを確認できる他の妊婦にインタビューしなかったことに腹を立てている』とある(このジャーナリストとは、AP通信と思われる)。つまり、マリアナさんは、他の妊婦にインタビューすれば、誰が攻撃したか、爆撃だったか砲撃だったかが分かるにも関わらず、分からないという私にのみインタビューしたと怒っているように読める。

 

https://www.cbsnews.com/news/marianna-vyshemirsky-pregnant-woman-mariupol-hospital-bombing-speaks-out/

 

ニューヨーク・ポストも、CBSも、どちらも歯切れが悪くて消化不良を起こしそうな記事なのだが、日テレニュースはもう少し具体的に書く。これによれば、マリアナさんはAP通信に対して『何がどこから飛んできたのか、わかりません』と言う一方で、ロシア系メディアに対しては『病院は空爆を受けたのではなく、地上からの砲撃だけだった』と答え、AP通信の記者に対しては『撮影を断ったにもかかわらず、無理やり撮影された』と語っている。

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/aa047bc3a98eca7325387ed06710943a6282dc6f?page=1

 

上記の日テレニュースで言及されたロシア系メディアによるインタヴューの記事と動画(日本語字幕付)は、以下のサイトで見ることができる。動画は日本語字幕付きなので、事実に対して興味のある人は是非見てほしい。

 

https://english.pravda.ru/news/world/150964-marianna_vyshemirskaya_mariupol/
https://www.youtube.com/watch?v=AWn6I8cCAug(日本語字幕付き)

 

この動画における本人の発言を聞く限りでは、ラブロフ外相の「産科病院に患者がいなかった」の発言は事実でなかったと判断できるが、患者(妊婦たち)がウクライナ軍に病院から出ていけと言われたこと、病院がウクライナ軍の基地として使われていたことは事実と考えられる。また病院への攻撃は、確実とは言えないが、空爆でなく砲撃だったとマリアナさんは推測している。

 

これ以上のことはわからない。だが、ウクライナ軍が産科病院を軍基地として使用していたこと、患者が病院から出ていくようにいわれていたこと、妊婦の食事をウクライナ軍の食事として提供するように要求したことは、マリアナさんの証言どおりで間違いないだろう。西側メディアはそうしたことは何も語らず、ロシアは残虐にも産科病院を空爆して多くの妊婦と子供を殺傷したと、キャンペーンを張ったのだった。

 

そして、ウクライナ軍が産科病院を基地として使用した事実は、次回に書こうと考えていること −アムネスティ・インターナショナルによる戦争犯罪に関するレポート:ウクライナ軍が意図的に住宅地や学校や病院に基地を設けて、住民を不必要な危険にさらしている− の一つの事例として使えるのは間違いない。

 

つづく、、、

 

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(4)

1年半ほど前に定年を迎え,それまでざっとしか見なかったニュースを暇に任せてじっくり見るようになった.するとニュース報道の粗が信じられないくらい次々と見えてくる.コロナウィルス起源やコロナワクチン安全性,治療薬イベルメクチン,そしてウクライナ戦争に関する様々な報道や解説.それらを見たり読んだりしていると多くの疑問が湧いてくるのだが,ホントかな程度の軽い気持ちで調べてみると,小さな疑問が次々と大きな不信感へと変わっていくのだ.もちろん,現役時代には研究者の端くれだったものとして,たまたま見つけたネット情報をそのまま信じる訳ではない.オリジナル情報源,情報源の信頼性,関連記事や論文などをひととおり確認し,さらには情報提示方法や文章記述などのメタ情報,自分自身の経験を総合した上で,どの程度信じてよいかを判断している.

不審感の最大の原因は,出るのが当然と思える疑問に対して,当局や"専門家"がまったく真面目に答えようとしていないことだ.当たり前の疑問に対して納得できる理由を示して説明することはほとんどない.おざなりか,子供だましか,筋の通らない説明でも,あればまだましな方.説明もなしにそれは嘘,フェイクです,気をつけましょう,のような話に出くわすと馬鹿にするなと怒りが湧いてくる.

 

ウクライナ戦争に関して,ロシア側とウクライナ側の言い分のどちらが正しいかを知りたいのに,メディアはまともに説明をしない.キエフ近郊のBuchaでの虐殺の実行者はロシア軍か,ウクライナ軍かの問題を例に,そのひどさを説明しよう.

当初ロシア軍の犯行として示された証拠は,ウクライナが提示した死体の写真と,米軍が提供した人工衛星写真だった.初めてそれを聞いたときには2つの疑問が頭に浮かんだ.1つは,激戦の中で必死の思いで退却した状況でなかったにもかかわらず,ロシア軍は自ら虐殺した数々の死体をそのまま放置していくだろうか,である.2つめは町中の死体の写真と人工衛星写真が証拠になりえるのか,である.米国は人工衛星写真を使って世界中の首脳を騙し,戦争を始めた過去がある(イラク戦争).15歳の少女に15人の新生児が虐殺されたと偽証をさせ,戦争を始めたこともある(湾岸戦争).その上,証拠として提示された写真の捏造は難しくはない.というより,捏造する必要すらない.死体は現実にそこにあるものを写せばよいし,人工衛星写真については,撮った日付をごまかせばよいだけなのだ.

 

ロシア側に立つもの,あるいはウクライナの言い分に疑問を持つ者たちは,具体的な反論をあげる.ロシア軍の撤退からウクライナ軍の進行,死体発見までの一連の出来事の時間と順序に不自然な点が多いことや,死体の写真の不自然さ(ロシア側であることを示す白布アームバンドを着用してる、ロシアからの援助品を持っている,ロシア侵攻から退却までだいぶ時間が経っていたのに死体が新しい等)に加え,最初に町に入ったアゾフ大隊の記録動画もあった.その短い動画には,Buchaに入ったアゾフ大隊の隊員の「黄色アームバンドをつけてない住民は撃ってもいいか」,「もちろん」という会話が記録されていた(この動画は、あっという間にYoutubeが削除した).だが,これらの反論に対するウクライナや欧米からの納得できる再反論や答えはほとんどない.ただニセ情報と切って捨てるだけである.

 

これでは,どちらの言い分が正しいかを判断することは誰にもできない.ウクライナあるいは西側諸国は少なくとも死体発見日の不自然さや白布アームバンド等の疑問について説明すべきだし,国が説明しなければ,メディアがその不自然さを当局に問い詰めるべきだろう.しかしメディアはそれをせず,「ロシアの犯行を証言する新たな目撃者が見つかった!」などと,簡単に捏造できそうな目撃者証言を流したりする.

そうした西側メディアの子供だまし報道を見ていると,どのような内容であろうと,米欧ウクライナの情報はすべて正しく,ロシア発の情報はすべて嘘,そう決めつけて報道すると決まっているようにしか思えない.メディアは毎日,そうした怪しい言説を垂れ流し続けている.

 

近現代の歴史を見れば,戦前日本や独裁国家だけでなく,米国・欧州を含む民主主義国も,戦争時には自国が善,敵国を悪とするプロパガンダ,つまり嘘やデマを流してきた.ベトナムパレスチナイラク、イラン、リビア....戦争当事国のメディアも国の発表をほとんどそのまま垂れ流す.だから,戦争当事国やその仲間の一方のみを信じていては,事実を知ることはできない.

 

★    ★    ★

 

今回は,ウクライナ戦争における多くの報道の中でも,世界的に大きな注目を集めたマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の攻防戦の中で救出された民間人のインタビュー記事を取り上げる.

 

まずは,マリウポリという都市の概要,マリウポリおよびアゾフスタリ製鉄所の攻防戦の概略から述べよう.

 

マリウポリは,ウクライナ東部のドンバス地方,ドネツク州にある人口10万以上の都市で,クリミア半島の東の海,アゾフ海に面している.ドンバス地方にはドネツク州とルガンスク州の2つの州があり(どちらの州も今は独立宣言をしていて,ドネツク民共和国,ルガンスク人民共和国と名乗っている),ウィキペディア(ドンバス)によれば,ロシア語を母語とする者はドンバス州で74.9%,ルガンスク州で68.8%である。なお,2001年時点で,ロシア人の割合はドネツィクで38%,ルガンスクで39%だったことは注目に値する.つまり,ドンバス住民の約7割がロシア語を母語とするだけでなく,ロシア国籍を持つものも4割近くいたのだ.ウクライナはそのようなドンバスを敵視して,2014年以来,8年以上も攻撃を続けているのだ.

 

ロシアのマリウポリ攻撃は,ウクライナに侵攻した2月24日から始まった.市街地での戦闘は4月半ばまで続き,4月16日にはロシア国防省が市街からウクライナ軍を「完全に排除した」と発表した.ただし,悪名高いアゾフ大隊を中心とするウクライナ軍約2000名が,多くの住民とともにアゾフスタリ製鉄所に籠城,徹底抗戦を表明し,戦闘は5月半ばまで続いた。

約1ヶ月のアゾフスタリ製鉄所での攻防戦において,ロシアは製鉄所内の住民を避難させるための人道回廊設置を提案した.しかし,この人道回廊がなかなか機能しなかったのだ.ウクライナはロシアが砲撃を止めないから避難ができないといい,ロシアはアゾフ大隊が住民を人間の盾にして避難させないと主張した.

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/84c86ce761d2cfa65271184d8f002d5769079f00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25CI80V20C22A4000000/
https://parstoday.com/ja/news/world-i96770

 

そのような中で,5月1日,国連と国際赤十字社が仲介する形で46人の住民が避難した.その中に,ナターリア・ウスマノワ(Natalia Usmnova)さんがいたのだ.なお,住民全員の避難が完了したのは7日だったという.

 

https://www.asahi.com/articles/ASQ516DX8Q51UHBI01J.html
https://www.bbc.com/japanese/61368319

 

ロイターのインタビューに対し,ウスマノワさんは,避難中の砲撃の激しさと恐怖を語った.人道回廊の設置と避難についての情報を知ってはいたが,外に出ることはできなかったとも語った.そしてビデオは,ウクライナの主張に合わせるように,ロシアの砲撃が怖くて出られなかったかのような印象を与える場面で終わる(次の記事内の動画の黄色いジャケットを着た女性).

 

https://www.reuters.com/world/europe/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-terror-bunkers-azovstal-2022-05-01/

 

ウスマノワさんは米NBCや英ガーディアンのビデオにも登場し,AOLやYahooのニュース記事では語った内容が本人の発言として紹介されている.ほぼ,ロイターと同じような内容だ.

 

https://www.youtube.com/watch?v=h71tEnXla6A
https://www.theguardian.com/world/2022/may/02/mariupol-evacuee-recounts-terror-in-bunkers-below-azovstal-steelworks
https://www.aol.com/news/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-172704606-160408088.html
https://news.yahoo.com/mariupol-evacuee-recounts-heart-stopping-172704606.html

 

ロイター,NBC,ガーディアンのビデオは編集されたものだが,ドイツの週刊誌シュピーゲルは,当初フルビデオを掲載したらしい.だが,以下の記事によると,そのフルビデオは何の説明もなく削除された.

 

https://natyliesbaldwin.com/2022/05/uncensored-video-of-natalia-usmanova-telling-of-her-experience-as-a-civilian-in-the-azovstal-steel-plant-in-mariupol/

 

デイリー・テレグラフニュージーランド)は,シュピーゲルがビデオを削除したのは内容の不一致があったからという.記事内容とウスマノワさんの証言が不一致だったということだろうが,デイリー・テレグラフは証言内容について次のように述べる.

 

『録音の中で、ウスマノバは記者団に対し、アゾフ過激派が2か月間「私たちをバンカーに閉じ込め」、ロシア軍によって確立された人道的回廊を使用して家族が立ち去ることを許可しなかったと語った.』

 

https://dailytelegraph.co.nz/world/top-western-media-outlet-deletes-video-critical-of-ukraine/

 

要は,ロイター,NBC,ガーディンは,ウクライナおよび欧米に都合のよい部分だけを切り取って編集し,ロシアが住民避難を妨げていたかように見せかけていたのだ.

 

さて,シュピーゲルが削除したものと同じかどうかはわからぬが,ロシアメディアによるフルビデオがYoutube上にある.これを見れば,ロイター,NBC,ガーディアンが,いかに不誠実か,どのように嘘を作り出したかがよくわかる.ウスマノフさんは,キエフ政府およびアゾフ大隊を批判しており,解放された後はウクライナ(西部)ではなくロシアに行きたいと述べている.

 

https://youtu.be/DoN4vM7thBo
https://youtu.be/AUylN9_aWz8

 

同じ日に解放された民間人は46人である.ウスマノフさんが西側メディの期待する証言をしないのであれば(それもジャーナリストとしてすべきことではないが),メディアは他の人にインタビューし,期待する内容のインタビューを掲載することもできたであろう.一人のインタビュービデオを切り貼りして真実を捻じ曲げるより,複数の中から都合の良いものを選択するほうが,嘘の罪が軽く感じるだろうからだ.だがそれはできなかった.おそらくは,ほぼ全員がウスマノフさんと同じことを言っていた.つまり事実として,アゾフ大隊が彼らを人間の盾として使っていたからであろう.

 

ところで,同じ嘘をつくにしても,シュピーゲルはビデオ編集はせず,ビデオを削除する方法を選んだ.同じ嘘はついているものの,黒を白に変えるような編集だけはしなかったという意味で,少しマシだったとも思えてくる...しかしそれは,我々がすっかりメディアの嘘に対して慣らされ、不感症になっているからだろう.

 

つづく...

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(3)

前回の記事で,2022年2月24日,ロシアがウクライナに侵攻する日まで,ウクライナで何が起きていたかについての事実(と思われること)について書いた.侵攻後の状況については,多くの人の記憶もまだ鮮明で,現在進行中であることから,戦争の全体像についてではなく,いくつかのトピックについて,主要メディアの報道の胡散臭さを具体的に取り上げて行こうと思う.

 

まずは,プーチンの"卑劣な"「核兵器による脅し」と言われる発言を取り上げてみたい.

 

 8月になって中高年以上の日本人が思い出すのは,第2次大戦末期の広島・長崎の原爆投下,そして日本の敗戦であろう.昭和の時代,その悲惨な記憶を文字通りに何度も何度も繰り返し聞かされたこともあって,戦後77年間,多くの日本人は核兵器の開発・保持・使用に反対してきた.だが,安倍晋三をはじめとする自民党右派が米国との核共有をおおっぴらに口にするようになり,プーチンによるウクライナ侵攻があり,さらに核使用を否定しないプーチン発言があったためか,このところ核兵器反対の世論は縮小しているように見える.今年の広島・長崎の原爆慰霊のTV報道では,その意図は明確でないが,テレビキャスターたちが申し合わせたように「プーチンによる核の脅し」という言葉をはさんでいた.

 

これを検証しよう.つまり,主要メディアが口々に言うように,プーチンは核使用をチラつかせて西側諸国を脅迫したか,である.そして脅迫したのならそれはなぜか,についてである.

 

東京新聞によると,プーチンの核発言について次のように書いた.

北大西洋条約機構NATO)の介入が受け入れがたい戦略的脅威になった場合に「必要に応じて使う」と発言した』

毎日新聞の記事だと次のようになる。

『「(ロシアは)他国にない兵器を保有しており,必要な時に使う」とも強調。核兵器と直接は言及していないが,英メディアなどは「事実上の言及」とも報じており..』

 

これが,TVキャスターたちの言う『脅し』にあたるかどうかは自明でないが,NATOウクライナ戦争に参戦したとき,あるいはNATOウクライナを強力に支援してロシアの国家としての存在が危うくなったとき,ロシアは核兵器を使うことも辞さないと表明したのはほぼ事実である.参考のために付け加えると,米国は核兵器の先制使用について否定をせず,中国は先制使用はしないと明言している.

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/174347

https://mainichi.jp/articles/20220428/k00/00m/030/032000c

 

では,ウクライナへの侵攻に際して,なぜプーチン核兵器使用の可能性について触れたのか.一つには,プーチンNATOによるロシア侵略を本当に恐れているからと考えられる.それを「プーチンの被害妄想」と言ってのける御用学者・大学教授も数多くいる.だが,元スイス軍情報将校・元NATO軍事アドバイザー・元国連平和維持局の軍事専門家ジャック・ボーによれば,NATOは決して,NATO自身が言うような防衛のためだけの軍事組織ではない.ユーゴスラビア紛争(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、コソボ紛争マケドニア紛争等)やリビア紛争で見せたNATOによる攻撃を見ればそれはわかる.そしてロシアとNATOが通常兵器による全面戦争をすれば,ロシアに勝ち目はない.経済力も技術力も段違いの差があるからだ.ロシアがNATOに対抗し、牽制できる唯一の軍事力は核ミサイルなのである.

だからこそロシアは1999年以来ずっとNATO拡大に反対してきたし,プーチン自身も2007年以来ずっと警告をしてきた.ウクライナNATOに加盟すればモスクワの目と鼻の先に米国のミサイルが配備される.キューバソ連の核ミサイルが配備されそうになった時にケネディ米国大統領が激しく警告したのと全く同じ構図だ.プーチンにとっては許されないレッドラインだったと言ってよいだろう.

 

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/03040607/?all=1

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-11-30/R3E0VWDWX2PX01

 

だが,プーチンウクライナ侵攻に際し核兵器使用に触れた理由は,これだけではないと考えられる.

 

遡ること8年前,2014年2月22日,ウクライナの首都キエフで米国(オバマ政権)が主導するマイダン革命(または違法な暴力クーデター)が成功した.翌日23日には公用語からロシア語が廃止されたが,同日,ロシア系国民が90%以上を占めるクリミアの議会はキエフの決定に従わないとの決議をした.そして2月末までには,反キエフの親露派住民および武装集団(西側報道では,一部ロシア軍兵士がいたとも言われる.クリミアにはロシアの重要な軍事基地がある)がクリミア半島をほぼ占拠した.2月27日にはクリミア自治共和国自治権拡大も議会で決議された.ウクライナ政府はこれらすべてをロシアが主導したと非難するが,ロシアは米国とウクライナの反政府勢力がキエフで違法暴力クーデターを主導し親露政権を倒したことを非難する.

 

3月1日,ロシアはロシア系住民保護を理由にクリミアへの軍投入を決めた.7日にはクリミア議会がウクライナからの分離とロシアへの編入を決議した.3月16日,クリミアでロシア編入の是非を問う住民投票が行われ,編入支持が96.6%と圧倒的多数を占めた.これを受けて翌17日にクリミア議会はウクライナからの独立を宣言し,ロシアへの編入を承認した.

 

クリミア紛争の経緯説明が長くなったが,これらの結果を受けて3月18日,ウクライナ国家安全保障・国防評議会元副長官シュフリッチと元首相のユーリヤ・ティモシェンコが電話会談をした(以下のURLはその盗聴記録).その盗聴された会談の中で,ウクライナ国内(主にドンバス)に残る800万人のロシア系国民(一部はロシア国籍も持つ)をどうするかと聞かれたティモシェンコは,彼らの上に原爆を落とせと発言したのだった.自国民に対する正気と思えぬこの発言は,ロシアおよびウクライナのロシア系住民には広く知られているようだ.

 

https://www.youtube.com/watch?v=oEFCmJ-VGhA (1分50秒から)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm23198262   (1分40秒から)

 

さらに深刻と思えるのは,前回の記事でも触れたトロント在住のカナダ人国際刑事弁護士Christopher Blackによる記事 "the legality of war" の次の部分である.

 

【私たちは,過去数か月間,NATO 諸国がロシアに対する核攻撃の実施を含む軍事演習を実施したことを覚えています.私たちはまた,米国が先制攻撃の核戦争政策をとっており,いつでもどこでも核兵器を使用する権利を主張していることを覚えています】

 

https://journal-neo.org/2022/03/08/the-legality-of-war/

https://christopher-black.com/the-legality-of-war/

 

この記事の発表は2022年3月8日であるから,過去数ヶ月といえば,2021年末から2022年にかけてということになる.その時期にNATOはロシアへの核攻撃の軍事演習を行っていたのである.

 

ロシア・プーチンは,NATOウクライナから核攻撃に関する挑発を受け続けていた.ウクライナ侵攻の決断にあたって,これらの挑発がプーチンの発言に影響を与えなかったとは考えにくい.プーチンの核発言は,我々ロシアはNATOに黙ってやられる訳にはいかない,そういう意思表示だったと考えることも十分に可能だ.

 

  ★   ★   ★

 

西側の主要メディアはこうした一連の出来事のすべてを書くことはしない.彼らが書くのは,「ロシアは他国にない兵器を保有しており、必要な時には使う」とのプーチン発言と,その兵器は核兵器との解釈である.それだけではない.さらに踏み込んだ解釈も書く.「その発言は我々に対する脅しだ」.そして,一旦そうした解釈をした後は,何の注釈もつけずに「ロシアは核兵器で我々を脅した」とだけ書くようになる.

 

「ロシアは核兵器で我々を脅した」 

 

切り取られたその言葉が,主要メディアのあちこちで何度も使われるようになる.だが果たしてそれは事実といってよいか.あるいはフェアな言い方か.NATOがロシアへの核攻撃の軍事演習を行っていたことを伝えずに,切り取った言葉だけを報道をすることは,真実を伝える(と期待されている)メディアとして許されることか.それは,嘘に近いのではないか.

 

一連の出来事が起きている中で,都合の悪いことを無視して,都合のいいことだけを取り上げ,報道する.それは明らかに不正義であるし,同じ不正義は人の発言や文章を伝える場合にも起きる.短くする場合には,全体の主旨を理解しそれと食い違わないように必要部分を取り出して要約する.小学生でもわかるその最低限の倫理を,西側の主要メディアは捨て去ってしまったように見える.まるで感染症のように不正義への不感症が広がっている....

 

次回は,もっと別の,もっとはっきりしたメディアの嘘を取り上げようと思う.

 

つづく...

 

 

 

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(2)

前回の記事では、ウクライナ戦争に関して、なぜプーチン100%悪玉論に疑問を持ったか、何を見て、どのようにしてNATOウクライナにも相応の非があると考えるようになったかを述べ、その資料を提示した。今回は、それらの資料からわかる事実に説明を加え、2008年頃から2022年2月まで、ウクライナで何が起きていたかをを整理しておく(もし事実として誤りがあれば訂正するつもり)。

 

https://mistydream.hatenablog.com/entry/2022/08/04/160257

 

○2014年以前

ウクライナは東西で政治的状況が全く異なる。西側住民は大半が親EUで東側は逆にほとんどが親露と、国民がほぼ2つに分断されていた。西側ではウクライナ語が話されるが。東部の親露住民はほとんどがロシア語ネイティブである。大統領選挙でも親EUと親露が拮抗して争う状況であった。2008年、当時の大統領は親EUのビクトル・ユーシェンコであったが、この年にNATOクロアチアアルバニアNATO加盟を決め、さらにウクライナグルジアについては将来の加盟を認めた。しかしNATO内でも意見は別れ、米国(ブッシュ大統領)はウクライナグルジアの加盟に積極的であったが、フランスとドイツはロシアを無用に刺激すると反対していた。もちろん、ロシアは自国の脅威になると反対を表明していた。

 

https://www.reuters.com/article/idJPJAPAN-31139120080403

https://www.afpbb.com/articles/-/2372790

 

2010年のウクライナ大統領選では、決選投票で親EUユーリヤ・ティモシェンコを破り、親露派大統領ヴィクトル・ヤヌーコヴィチが誕生した。そしてこの年、ヤヌーコヴィチは、2017年までのロシア黒海艦隊のクリミア駐留を25年延長する合意文書に調印した。一方で、2013年にはEUとの政治・貿易協定の仮調印をしている点を考慮すると、必ずしもガチガチの親露派ではなかったかもしれない。だが今年、ウクライナ検察庁は、9年前の前者の調印は国家反逆罪にあたるとしてヤヌーコヴィチの逮捕状を取ることになった。

(ヤヌーコヴィチにとっては、後述するマイダン革命時に起きた虐殺の責任もあるとしてすでに逮捕状が出ていたので、追加の逮捕状となる。だが、詳しくは述べないが、マイダン革命時の虐殺がヤヌーコヴィチ政権側でなく反政府側の挑発行動であったことは、エストニア外務大臣EU外務大臣の電話盗聴、およびビクトリア・ヌーランド米国務次官補と駐ウクライナ大使の電話盗聴により明らかになっている)

 

https://japanese.joins.com/JArticle/291441

https://ameblo.jp/osaka-bengoshi/entry-12733961828.html

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%83%8C%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89

 

当時ウクライナは経済危機に陥っていた。ヤヌーコヴィチはEUおよびIMFの支援を求めて貿易協定の仮調印をしたのだが、彼にとって納得できる支援を得ることができなかったことから(本人発言、ウクライナ・オン・ファイアー参照)、あるいはロシアの圧力があったことから(西側メディア報道)、西側の支援を諦め(協定の本調印をせず)、ロシアに支援を求めることとなった。一般論として、経済危機に陥った国に対するIMFの支援は非常に過酷な条件(徹底的な福祉切り捨て、歳出削減、民営化等の新自由主義的政策)を課すため、その支援を諦めることもありうる判断だと思うのだが、これをきっかけに親EUの西側にある首都キエフで大規模な住民デモが続いていた。

 

https://www.bk.mufg.jp/report/ecowws2013/Ukraine-2013-03-J.pdf

https://www.bk.mufg.jp/report/ecowws2013/Ukraine-20130828-J.pdf

https://www.bk.mufg.jp/report/ecowws2013/Ukraine-20131213-J.pdf

 

○2014年

 前年からの平和的な住民デモは、ウクライナの極右暴力勢力(右派セクターやアゾフ等)と米国情報機関の工作(当時はオバマ政権で、ウクライナ担当はバイデン副大統領だった。ちなみに、リビアやシリアはヒラリー・クリントン国務長官の担当)により暴徒化・過激化し、先に述べた虐殺も起こり、結果として非合法な政府転覆に至った(マイダン革命もしくは暴力クーデター)。この革命もしくはクーデターの詳細は、前回に示したウクライナ・オン・ファイアーを始めとするいくつかの動画に描かれている。

その後の暫定政権および新政権は極右の影響が非常に強い親EU政権となった。勢いに乗った極右勢力はキエフオデッサでロシア系住民への暴力・虐殺等を繰り返した。「オデッサの悲劇」はその中でも最大の虐殺事件であったが、極右の影響が強い新政権はその捜査すらしようとはしなかった。そのためロシア系住民が大半である東部ドンバス地方やクリミア半島は、ウクライナからの独立あるいは自治権を求め、自主的住民投票に走った。クリミア半島にはロシアの軍事上重要な黒海艦隊の拠点がある。ロシアは、米国の力を借りて親露政権を非合法に転覆したウクライナには渡せないと(おそらく考え)、クリミア半島を併合した。ドンバス地方の住民たちもクリミアと同様の併合をロシアに求めたようだが、結局ロシアから見捨てられた形になり、ウクライナ政府に自治権・独立を要求することになる。

 

https://ameblo.jp/osaka-bengoshi/entry-12733961828.html

 

 ドンバスからの自治権・独立要求に対し、ウクライナ暫定政権(オレクサンドル・トゥルチノフ)とその後の新政権(ペトロ・ポロシェンコ大統領)は、ロシア語禁止と軍隊派遣で答えた。そして内戦が始まる。当初は「象と蟻の戦い(ルガンスク人民共和国軍司令官)」であったが、ドンバス地方出身の兵士が戦車等の兵器ごとドンバス側に寝返り、またそれぞれがEUまたはロシアの軍事支援を受けることで、内戦はほぼ8年続いた(まだ終わってない)。

 2014/9と2015/2には、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4カ国が2回に渡って停戦合意(ミンスク合意)をしたが、合意後にウクライナが見直しを要求し、ロシアが拒否する、を繰り返して合意は全く守られていない。 ミンスク合意には、ドンバスに『特別な地位(自治権)』を与えることが記されている。ウクライナミンスク合意を守れなかった背景には、政権の中枢に入り込んでいた極右の親玉(ドミトリー・ヤロシ)がポロシェンコ大統領に「ミンスク合意を実施したら殺す」と公開の場で脅迫した事実がある。ゼレンスキーも極右に同様の脅迫をされてることは公然の秘密のようだ。

 

https://www.rt.com/news/188572-ukraine-riots-poroshenko-radicals/

https://www.youtube.com/watch?v=crgqws6v9fU

https://www.youtube.com/watch?v=kvXZbRuR4SY

https://www.watchdogmediainstitute.com/p/blog-page.html

 

ウクライナ国内の極右による脅迫、殺害、拷問の報告・動画は、google, facebook, twitterの検閲により次々と削除されているが、それでも丁寧に探せばネット上に溢れている。ウクライナでは多くの野党政治家、ジャーナリスト等の殺害・拷問・失踪も報告されており、今年3月、ロシアとの停戦協議の代表の一人、デニス・キレーエフも停戦に積極的だったため「スパイだった」として殺害されている。

 

https://marktaliano.net/sbu-the-terrible-ukrainian-political-police-assassinations-and-torture-by-laurent-brayard/

https://www.donbass-insider.com/2022/03/10/sbu-the-terrible-ukrainian-political-police-assassinations-and-torture/

https://www.thedailybeast.com/ukraine-tries-to-terrify-journalists-who-cover-the-war

https://note.com/8479567uso/n/nc79e7c685475

https://news.yahoo.co.jp/articles/60a574e4d6f32b1774cac0dea84e353bab91f439

https://www.chunichi.co.jp/article/430288

 

なお、以下のサイトは、ウクライナによるいわゆる"kill list"である。野党政治家やドンバスで活動する独立ジャーナリスト達が登録されている。一番上の"ФИО"の欄に、"John Miller"、"Partick Lancaster"、"Alina Lipp", "Graham Phillips", "Eva Bartlett"など、ジャーナリスト名を入れると戦争犯罪者として表示される。

 

https://myrotvorets.center/criminal/

 

○2015-2022/2月

 2015年には2度めのミンスク合意があったが結局守られず、8年間、ウクライナからドンバスへの攻撃は続き、多くのロシア系住民が殺された(西側メディアでは全く報道されないが、ドンバスで取材を続ける米、英、独、オランダ、カナダ等の独立ジャーナリスト達が報告している。彼らは先のkill listに入れられた)。この間、ドンバスの民兵ドネツク民共和国とルガンスク人民共和国の兵士)がドンバスの外を攻撃することはなく(その報告は見当たらない)、ロシアは兵器等の支援をしたであろうが、軍隊を入れる支援はしてこなかった。2021年、米国大統領がバイデンに変わると(2014年の政府転覆時、バイデンはオバマ政権でウクライナ担当だった)、ウクライナNATOは、クリミア半島とドンバスを征服すべく、攻撃準備を開始し、軍事支援・軍事訓練を強化した。特筆すべきは、NATOはロシアを核攻撃する訓練も実施していた(Christopher Black, the legality of war)。プーチンが核使用について言及したのはこの事実があったからかもしれない。

また、2022/02/16にはウクライナからドンバスへの砲撃が急激に増えたと、元スイス軍情報将校、元NATO安全アドバイザー、かつ元国連平和活動局所属であったジャック・ボーが報告している。彼は、戦争はロシアが侵攻した2022/02/24ではなく、02/16に始まったと考えるべきだと語っている。

 

https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

https://note.com/14550/n/n6603d32072eb

https://note.com/14550/n/nbcebd70d9726

https://journal-neo.org/2022/03/08/the-legality-of-war/

https://christopher-black.com/the-legality-of-war/

 

長くなった。この記事では、2022/02/24、ロシアがウクライナ侵攻してからの話を書こうと思っていたのだが、その前の状況だけでこれだけ長くなってしまったてので、続きはまた。

 

つづく、、、

 

 

 

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(1)

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。その最初のニュースを自分がどのような状況で聞いたのかは覚えていない。だが、2つの意味で驚いたことは覚えている。1つは単純に、ロシアが堂々と隣国に大規模な侵攻を開始したこと。もうひとつは、米国がロシアの侵攻をほぼ正確に予告していたことだ。ウクライナ国境地帯にロシア軍が集積していたこと、そしてそれがどの程度の規模だったかは人工衛星による分析で分かるだろう。だが、軍事的圧力をかけることと実際に侵攻することの間には大きなギャップがある。その違いを、米国はほぼ正確に見分ける軍事インテリジェンスを持っているのだろうか、と改めて驚いたのである(このことは後でまた触れる)。

 

その後、主要メディアでは怒涛のようなロシア・プーチン批判が始まった。批判と怒りは当然予想されたが、それだけではなく、ロシアを貶め、卑しめ、嘲るような報道も始まった。いくらなんでも冗談か嘘としか思えないような話、逸話、ニュースが、最初は少しずつだったがしばらくすると急激に増え、いつの間にかそれが世の中の常識になったかのようだった。ウクライナ東部はロシア語を日常語とするロシア系住民が大多数で、ずいぶん前からキエフ(キーウ)政府と内戦状態だったはずだが、テレビはそのことに関してほとんど言及せず、悪者プーチンが一方的に侵攻したように伝えていた。ロシアと米国は敵対し、その米軍と日本の自衛隊は軍事演習等の活動を一体化させつつあるが、その自衛隊の専門家を呼んでロシア侵攻の一方的な批判をさせる。そんなメディアの姿勢に、疑問を持たざるを得なかった。

 

そんなときである。オリバー・ストーン監督の「ウクライナ・オン・ファイアー(2016)」(実際の監督はIgor Lopatnok、エグゼクティブ・プロデューサーとインタビュアーがオリバー・ストーン)というドキュメンタリー映画を見た。ウクライナの歴史と、ウクライナ内戦のきっかけとなった2014年のマイダン革命(ユーロ・マイダン)に関するドキュメンタリー映画である。

(この映画は、ネット上にアップロードされては削除される、を繰り返してきた。現時点では以下にアップロードされている。以前はGoogle Playで見ることができたが、今では見ることができないようだ。)

 

ウクライナ・オン・ファイアー(日本語字幕あり)

https://www.youtube.com/watch?v=twWOyaY-k6o

 

見て驚いた。マイダン革命は、米国とウクライナの極右暴力集団(ネオナチともファシストとも、よく呼ばれる)との協力で起こした非合法な政府転覆であるように描かれていたからだ。オリバー・ストーンは社会派の映画監督で、プラトーン(1986)、ウォール街(1987)、7月4日に生まれて(1989)、スノーデン(2016)などが有名である。私もプラトーンウォール街、スノーデンをかつて見て、基本的には信頼をしていた。

その後、ネット上でオリバー・ストーンの関連動画を探し回り、オリバー・ストーン・オン・プーチン(2017)、乗っ取られたウクライナ(2019)など、一連のウクライナ関係の見て、オリバーの本気度を強く感じたのだった。

 

オリバー・ストーン・オン・プーチン(Amazon Primeにあり)

第1部 https://www.youtube.com/watch?v=b51nkKwPsKA

第2部 https://www.youtube.com/watch?v=jsiOl-F_M6w

第3部 https://www.youtube.com/watch?v=RASyNwiDpvM

第4部 https://www.youtube.com/watch?v=EFdM5kl7usk

 

乗っ取られたウクライナ

https://www.youtube.com/watch?v=vLWuYFSBn6g

 

そうは言っても、情報源がオリバーだけでは、その情報の正しさに不安は残る。そんな訳で他の情報もネットで探してみると、出てくる、出てくる。マイダン革命やそれ以降のウクライナの社会・政治状況を描く動画や報告書がたくさんある。それらを一つ一つ見ていると、8年以上内戦が続いてきたウクライナは、アフガン、イラクリビア、シリア、イエメンと同等とは言わずとも、ほとんど国家の体をなしていないほど腐敗し、暴力と嘘が蔓延する国になってしまったことが見えてくる。ほんの一部だが、それらの動画を挙げておく。ただし、これらの動画は頻繁に検閲・削除されるため、いつでも見られるとは限らない。ない場合には検索してみると見つかることがある。

 

マイダンの虐殺

https://www.youtube.com/watch?v=3aiXM9Q5X_0

ウクライナ軍・ネオナチ組織軍による大量虐殺

https://www.youtube.com/watch?v=nKspezE2yUg

ドンバス2016

https://www.youtube.com/watch?v=ln8goeR5Rs4

 

また、次の一連の記録動画(現時点で全17部、合計24時間以上の記録映画)は、圧倒的な質と量の記録によって、それがフェイクではありえないことを自ら証明しているが、それだけでなく、マイダン革命とその後に起きた内戦について、ウクライナ政府と欧米政府が事実を隠し、嘘を言い続けていることを明らかにする。つまり、ウクライナ政府がテロリストと呼ぶ東部ドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)の住民たちは、非合法な政府転覆をした極右暴力集団とその影響下で作られた政府に抗議し、ドンバス地域の自治権を要求する平凡なロシア系市民であることがわかる。ウクライナ政府はその抗議と自治権要求に対して、ロシア語を公用語から排除し、軍隊を送ることで答えた。しかもその軍隊は、マイダン革命直後に抗議に立ち上がったオデッサのロシア系市民たちを大虐殺(オデッサの悲劇)した極右暴力集団から構成された軍隊(アゾフ大隊、アイダー大隊、トルネード大隊等)なのである。

より分かりやすく言えば、ウクライナ政府によるテロリスト撲滅とは、ドンバスに住む立場の弱いロシア系住民たちの追放・抹殺・虐殺であった。パレスチナや、クルドや、ロヒンギャや、ウィグルや、チベットの人々ように、自国政府に弾圧され続けている人々なのだ。そもそもロシア系といえども彼らはウクライナ市民。その市民にむけて敵意をむき出し、爆撃・砲撃を繰り返す政府は、とてもまともな政府とは言えない。

 

バラの棘ーウクライナ革命の犠牲者

https://www.watchdogmediainstitute.com/p/blog-page.html

 

私は、この一連の記録映画をたっぷりと時間をかけて見た。そして、ウクライナと西側諸国政府および西側主要メディアが伝えることは、少なくともマイダン革命からロシア侵攻に至るまでのドンバスに関する報道に関しては、ほとんど信用に値しないものであるとの確信を持つに至った。

この確信は、財務省内閣官房審議官や国際通貨基金日本政府代表理事等を歴任し、現在は大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長である小手川大助の詳細で具体的な報告とも矛盾なく一致し、確信の大きな補強にもなった。

 

小手川大助氏の報告

https://ameblo.jp/osaka-bengoshi/entry-12733961828.html

 

さて、上に示した数々の資料は、マイダン革命前後からその後の内戦まで、ウクライナで政治的・社会的に何が起こっていたかを知るための貴重な資料である。ウクライナ内戦がなぜ起きたかだけでなく、その後なぜロシアが侵攻するに至ったかを理解するためにも必須の資料といってよいだろう。

 

ところで、ロシアのウクライナ侵攻の背後に、ロシアの軍事目的があっただろうと考えるのは、たぶん正しい。たが、その軍事目的が主としてロシアの帝国主義的野心(ロシアの領土拡張)なのか、安全保障上の危機対策(ロシア国境近くへのNATO=米国の核ミサイル配備を防ぐ)なのかは、水掛け論にしかならず、議論しても無駄だろう。他人が持つ目的の推測は、推測する人間と推測される人間の信頼関係の反映でしかないからだ。だが、ロシア侵攻の前後にあった事実を知っておくことは重要だろう。

 

元スイス軍情報将校、元NATO安全アドバイザー、かつ元国連平和活動局所属であったジャック・ボーが指摘する事実によると、ロシア侵攻の前年、2021年(注:ウクライナ疑惑のあったバイデンが大統領に就任した直後)からウクライナ政府はクリミア半島奪還とドンバス支配のために軍備増強を進め、黒海バルト海NATOとの軍事演習を繰り返し、ドンバスへの爆撃や砲撃、破壊工作も行われていた(ミンスク合意違反)。NATOによるウクライナへの軍事支援・軍事援助も着々と続けられていた。さらに、カナダ・トロント在住の国際犯罪弁護士Christopher Blackによれば、ロシア侵攻前の数ヶ月の間に、NATOは対ロシアの核攻撃演習を含む軍事訓練を実施していた(プーチンが核攻撃も辞さないと発言したのは、これがあったからだろう)。

 

そうした状況の中で、ジャック・ボーによれば、2022年2月16日ウクライナ軍はドンバスへの砲撃を劇的に増やした。翌日2月17日、なぜか米国が、数日以内にロシアがウクライナに侵攻すると発表した。それはつまり、この2日間のウクライナと米国の動きは、ロシアに侵攻を催促する罠だったと解釈できるものだった。その罠にかかるような形で2月21日、プーチンはドンバス地方のルガンスク人民共和国ドネツク民共和国を国家として承認、2月23日両人民共和国はロシアに軍事支援を要請した。そして翌日24日、プーチン国連憲章第51条を発動し、防衛同盟の枠組みで軍事支援を開始した(ウクライナに侵攻した)。

 

  ジャック・ボーの報告

    https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

    https://note.com/14550/n/n6603d32072eb

    https://note.com/14550/n/nbcebd70d9726

 

  Christopher Black, The Legality of War, New Eastern Outlook, Mar. 8, 2022.

    https://journal-neo.org/2022/03/08/the-legality-of-war/ 

    https://christopher-black.com/the-legality-of-war/

 

ジャック・ボーとChristopher Blackが述べた2021年から22年のウクライナNATOの動きはほとんど世間に知られていないだろう。2022年2月のウクライナ軍の砲撃激化については、米国やNATOは、ロシアの介入を完全に違法と思わせるため全く発表していないそうである。ボーによれば、今回の戦争が始まったのは、上述の経緯からみて、2月24日ではなく2月16日とするのが適切とのことである。

 

ただし、ドンバス地域で戦争取材を続けている独立系のジャーナリスト達が、ドンバス住民にインタビューすると、彼らは必ずこう言う。この戦争が始まったのは今年(2022年)ではない、2014年だと。我々は8年以上、自国の政府に砲撃され、殺されているのだと。

 

つづく。。。

 

 

日本は絶対平和への決意を捨てた

このところ,ほとんどの日本人が「二度と戦争はしない」という決意を捨てようとしている,あるいは忘れようとしていると感じる.「一人前の国になる」とか「友達が攻撃されているときに見捨てろというのか」などという素朴な感情を揺さぶるポピュリスト的言葉に騙され,戦後ずっと憲法違反とされてきた集団的自衛権を勝手に覆す当時の首相に,大多数の日本国民は怒りを示さなかった.ずさんなミサイル防衛計画の失敗で膨大な税金を無駄遣いした政府が,唐突に敵地攻撃能力(反撃能力)を持つのが一番のミサイル防衛と言い出しても,何の疑問も持たない.ウクライナ戦争を都合よく利用して防衛予算を倍増しようとする自民党に対しても賛成する国民が多い.

 

ウクライナ戦争は,米国の民主党ネオコンオバマ,バイデン,ヒラリー・クリントン等)と現地の極右暴力勢力とが協力して起こした非合法クーデター(2014年)をきっかけとする内戦から始まった.クーデター後にできた親米・親EU政権は極右暴力勢力を取り込み,東部ドンバス地方のロシア系自国民を弾圧(軍隊が自国民を攻撃)し続けた.その弾圧の激化がロシアの介入を招いた.プーチンは,ドンバスのロシア系住民を見捨てるか,西側社会を敵に回すかの踏み絵を踏まされたのだ.

資料は探せばたくさんあるが,2014年当時の状況は記録映像「バラの棘(Roses Have Thorns - Casualties of the Ukrainian Revolution)」が詳しい.1時間前後の動画が17部まである大作だ(まだ第8部までしか見てないが,第1部のEURO-MAIDAN & CRIMEAと第6部のTHE ODESSA MASSACRE は必見).

 

https://www.watchdogmediainstitute.com/p/blog-page.html

 

2022年のロシア侵攻前後の状況については,元スイス軍情報将校で元NATO安全アドバイザー,さらには元国連平和活動局であるJACQUES BAUDの以下の記事が詳しい.

 

1. https://mronline.org/2022/04/10/the-military-situation-in-the-ukraine/

2. https://www.thepostil.com/the-military-situation-in-the-ukraine-an-update/

3. https://www.thepostil.com/our-interview-with-jacques-baud/

1.の日本語訳 https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

 

話を元に戻そう.

かつての自民党保守本流軽武装,現憲法遵守であった.しかし自民党全体が右側に,あるいはタカ派に少しずつ変節するにつれて,日本国民も羊のようにそれに従っている.「他国に侵略されたらどうする?」「ウクライナのようになったら困るだろ?」 そう言われると,ごく単純に「防衛を固めなければ..」「防衛費が増えてもしかたがない」などと言う.

だけど,誰が日本を侵略すると思う? 北朝鮮? 北朝鮮に単独で日本を侵略できる能力はないし,侵略する意味もない.北朝鮮が(日本に駐留している米軍から)攻撃されるという危険さえ感じなければ,米軍による怒涛の仕返しを覚悟してまで日本にミサイルを打ち込む意味もない.そんなこと誰だってわかる.北朝鮮に日本侵略のメリットはないし,中国が同意もしくは参戦しなければできるわけがない.仮に侵略があるとすれば中国が同意する場合に限られるが,侵略したいと思っているのは北朝鮮ではなく,中国の方だろう.

中国が日本侵略の意図を持つとすれば,その理由は日本から米国を追い出したいということにつきる.誰からも邪魔をされずに太平洋に出ていきたいのだ.実際に行動を起こすとすれば,1)米国が直接に兵をださないと信じる場合か,2)米国が直接戦争に参加しても中国が勝つと確信した場合,しかない.

1)の場合,日本が抗戦するなら,中国(and北朝鮮)と日本の戦争になるだろう.米国は武器等の支援をするだけになる.戦場は日本だ.悲惨な戦いになるだろう.戦争になって,戦場の市民が巻き込まれないなんて机上の空論にすぎない.市民が一方の戦闘員に何らかの支援をすれば,それは他方から見れば敵対行為だ.敵性市民が市民の10%でしかなく,残りの90%が完全な中立であったとしても,相手には区別がつかない.市民全体が敵とみなされる.

まして,第2次世界大戦時,中国の民間人死者数は1000万人だ.ほとんどが日本軍に殺されたと言っていいだろうが,戦争になれば,中国軍の兵隊はそれを思い出すだろう.自国が蹂躙された過去の想いで憎しみが倍増すると想像される.過去の戦争が次の戦争の憎しみに油を注ぐのだ.第二次大戦時の日本の民間人犠牲者は80万人だったが,それをはるかに上回る犠牲者の出る可能性が高いだろう.ちなみに,第二次大戦時に本国で地上戦が行われた国々 - ドイツ,ポーランドソ連,中国 - の犠牲者数は日本の犠牲数者よりはるかに大きかった.

 

http://honkawa2.sakura.ne.jp/5227.html

 

2)の場合は,中国・北朝鮮 v.s. 日本・米国の戦いになるが,核戦争を防ぐため,中国と米国の全面戦争ではなく,日本を戦場とする局地戦 - 日本にとっては全面戦争 - になるだろう.もちろん,1)の場合より悲惨な戦場になる.

戦いは勝つか負けるかわからないが,中国が米国の支援があっても勝てる,または米国が参戦しても勝てると判断して戦争を始めるなら,そうなる可能性が高い.その場合,日本は多くの国民の命を失うだけでなく,国土は荒廃し,その上,国家主権も失うことになる.最悪の中の最悪で終わる可能性が高いのだ.

 

意思決定という研究分野がある.経済学,心理学,コンピュータ科学の境界領域といえる研究分野だが,その世界で最もオーソドックスな意思決定の方法の一つに,MAX-MIN戦略がある.いくつかの選択肢があるとき,それぞれの選択肢を選んだときに起こり得る最悪(Minimum)の状態を想定する.そして,それらの最悪な状態の中で最もまし/良く(Maximum)なる選択肢を選ぶというものだ.最悪な場合でも最もましなものを選びましょうという戦略だ.ボードゲームの基本戦略と言ってもよい.その戦略に従えば,侵略されたときに取るべき手は,明らかに「戦わない」だ.戦わなければ,最悪でも戦死者はゼロだ.国土も荒廃しない.失うのは国家主権だけ.

 

昭和20年代と30年代,第二次大戦後の日本で「二度と戦争しない」と誓っていた多くの日本人が考えていたのは,「二度と侵略戦争を起こさない」という意味だけではない.「何があっても戦わない」「他国が侵略してきても戦わない」という切実な思いだったのだ.憲法自衛戦争を否定しないとか,自衛隊は軍隊ではないとかの言葉遊びはやめてもらいたい.

 

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや(寺山修司

 

私たちは国家のために生きているわけではない.