霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

ウクライナ戦争と嘘不感症に感染したメディア(1)

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。その最初のニュースを自分がどのような状況で聞いたのかは覚えていない。だが、2つの意味で驚いたことは覚えている。1つは単純に、ロシアが堂々と隣国に大規模な侵攻を開始したこと。もうひとつは、米国がロシアの侵攻をほぼ正確に予告していたことだ。ウクライナ国境地帯にロシア軍が集積していたこと、そしてそれがどの程度の規模だったかは人工衛星による分析で分かるだろう。だが、軍事的圧力をかけることと実際に侵攻することの間には大きなギャップがある。その違いを、米国はほぼ正確に見分ける軍事インテリジェンスを持っているのだろうか、と改めて驚いたのである(このことは後でまた触れる)。

 

その後、主要メディアでは怒涛のようなロシア・プーチン批判が始まった。批判と怒りは当然予想されたが、それだけではなく、ロシアを貶め、卑しめ、嘲るような報道も始まった。いくらなんでも冗談か嘘としか思えないような話、逸話、ニュースが、最初は少しずつだったがしばらくすると急激に増え、いつの間にかそれが世の中の常識になったかのようだった。ウクライナ東部はロシア語を日常語とするロシア系住民が大多数で、ずいぶん前からキエフ(キーウ)政府と内戦状態だったはずだが、テレビはそのことに関してほとんど言及せず、悪者プーチンが一方的に侵攻したように伝えていた。ロシアと米国は敵対し、その米軍と日本の自衛隊は軍事演習等の活動を一体化させつつあるが、その自衛隊の専門家を呼んでロシア侵攻の一方的な批判をさせる。そんなメディアの姿勢に、疑問を持たざるを得なかった。

 

そんなときである。オリバー・ストーン監督の「ウクライナ・オン・ファイアー(2016)」(実際の監督はIgor Lopatnok、エグゼクティブ・プロデューサーとインタビュアーがオリバー・ストーン)というドキュメンタリー映画を見た。ウクライナの歴史と、ウクライナ内戦のきっかけとなった2014年のマイダン革命(ユーロ・マイダン)に関するドキュメンタリー映画である。

(この映画は、ネット上にアップロードされては削除される、を繰り返してきた。現時点では以下にアップロードされている。以前はGoogle Playで見ることができたが、今では見ることができないようだ。)

 

ウクライナ・オン・ファイアー(日本語字幕あり)

https://www.youtube.com/watch?v=twWOyaY-k6o

 

見て驚いた。マイダン革命は、米国とウクライナの極右暴力集団(ネオナチともファシストとも、よく呼ばれる)との協力で起こした非合法な政府転覆であるように描かれていたからだ。オリバー・ストーンは社会派の映画監督で、プラトーン(1986)、ウォール街(1987)、7月4日に生まれて(1989)、スノーデン(2016)などが有名である。私もプラトーンウォール街、スノーデンをかつて見て、基本的には信頼をしていた。

その後、ネット上でオリバー・ストーンの関連動画を探し回り、オリバー・ストーン・オン・プーチン(2017)、乗っ取られたウクライナ(2019)など、一連のウクライナ関係の見て、オリバーの本気度を強く感じたのだった。

 

オリバー・ストーン・オン・プーチン(Amazon Primeにあり)

第1部 https://www.youtube.com/watch?v=b51nkKwPsKA

第2部 https://www.youtube.com/watch?v=jsiOl-F_M6w

第3部 https://www.youtube.com/watch?v=RASyNwiDpvM

第4部 https://www.youtube.com/watch?v=EFdM5kl7usk

 

乗っ取られたウクライナ

https://www.youtube.com/watch?v=vLWuYFSBn6g

 

そうは言っても、情報源がオリバーだけでは、その情報の正しさに不安は残る。そんな訳で他の情報もネットで探してみると、出てくる、出てくる。マイダン革命やそれ以降のウクライナの社会・政治状況を描く動画や報告書がたくさんある。それらを一つ一つ見ていると、8年以上内戦が続いてきたウクライナは、アフガン、イラクリビア、シリア、イエメンと同等とは言わずとも、ほとんど国家の体をなしていないほど腐敗し、暴力と嘘が蔓延する国になってしまったことが見えてくる。ほんの一部だが、それらの動画を挙げておく。ただし、これらの動画は頻繁に検閲・削除されるため、いつでも見られるとは限らない。ない場合には検索してみると見つかることがある。

 

マイダンの虐殺

https://www.youtube.com/watch?v=3aiXM9Q5X_0

ウクライナ軍・ネオナチ組織軍による大量虐殺

https://www.youtube.com/watch?v=nKspezE2yUg

ドンバス2016

https://www.youtube.com/watch?v=ln8goeR5Rs4

 

また、次の一連の記録動画(現時点で全17部、合計24時間以上の記録映画)は、圧倒的な質と量の記録によって、それがフェイクではありえないことを自ら証明しているが、それだけでなく、マイダン革命とその後に起きた内戦について、ウクライナ政府と欧米政府が事実を隠し、嘘を言い続けていることを明らかにする。つまり、ウクライナ政府がテロリストと呼ぶ東部ドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)の住民たちは、非合法な政府転覆をした極右暴力集団とその影響下で作られた政府に抗議し、ドンバス地域の自治権を要求する平凡なロシア系市民であることがわかる。ウクライナ政府はその抗議と自治権要求に対して、ロシア語を公用語から排除し、軍隊を送ることで答えた。しかもその軍隊は、マイダン革命直後に抗議に立ち上がったオデッサのロシア系市民たちを大虐殺(オデッサの悲劇)した極右暴力集団から構成された軍隊(アゾフ大隊、アイダー大隊、トルネード大隊等)なのである。

より分かりやすく言えば、ウクライナ政府によるテロリスト撲滅とは、ドンバスに住む立場の弱いロシア系住民たちの追放・抹殺・虐殺であった。パレスチナや、クルドや、ロヒンギャや、ウィグルや、チベットの人々ように、自国政府に弾圧され続けている人々なのだ。そもそもロシア系といえども彼らはウクライナ市民。その市民にむけて敵意をむき出し、爆撃・砲撃を繰り返す政府は、とてもまともな政府とは言えない。

 

バラの棘ーウクライナ革命の犠牲者

https://www.watchdogmediainstitute.com/p/blog-page.html

 

私は、この一連の記録映画をたっぷりと時間をかけて見た。そして、ウクライナと西側諸国政府および西側主要メディアが伝えることは、少なくともマイダン革命からロシア侵攻に至るまでのドンバスに関する報道に関しては、ほとんど信用に値しないものであるとの確信を持つに至った。

この確信は、財務省内閣官房審議官や国際通貨基金日本政府代表理事等を歴任し、現在は大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長である小手川大助の詳細で具体的な報告とも矛盾なく一致し、確信の大きな補強にもなった。

 

小手川大助氏の報告

https://ameblo.jp/osaka-bengoshi/entry-12733961828.html

 

さて、上に示した数々の資料は、マイダン革命前後からその後の内戦まで、ウクライナで政治的・社会的に何が起こっていたかを知るための貴重な資料である。ウクライナ内戦がなぜ起きたかだけでなく、その後なぜロシアが侵攻するに至ったかを理解するためにも必須の資料といってよいだろう。

 

ところで、ロシアのウクライナ侵攻の背後に、ロシアの軍事目的があっただろうと考えるのは、たぶん正しい。たが、その軍事目的が主としてロシアの帝国主義的野心(ロシアの領土拡張)なのか、安全保障上の危機対策(ロシア国境近くへのNATO=米国の核ミサイル配備を防ぐ)なのかは、水掛け論にしかならず、議論しても無駄だろう。他人が持つ目的の推測は、推測する人間と推測される人間の信頼関係の反映でしかないからだ。だが、ロシア侵攻の前後にあった事実を知っておくことは重要だろう。

 

元スイス軍情報将校、元NATO安全アドバイザー、かつ元国連平和活動局所属であったジャック・ボーが指摘する事実によると、ロシア侵攻の前年、2021年(注:ウクライナ疑惑のあったバイデンが大統領に就任した直後)からウクライナ政府はクリミア半島奪還とドンバス支配のために軍備増強を進め、黒海バルト海NATOとの軍事演習を繰り返し、ドンバスへの爆撃や砲撃、破壊工作も行われていた(ミンスク合意違反)。NATOによるウクライナへの軍事支援・軍事援助も着々と続けられていた。さらに、カナダ・トロント在住の国際犯罪弁護士Christopher Blackによれば、ロシア侵攻前の数ヶ月の間に、NATOは対ロシアの核攻撃演習を含む軍事訓練を実施していた(プーチンが核攻撃も辞さないと発言したのは、これがあったからだろう)。

 

そうした状況の中で、ジャック・ボーによれば、2022年2月16日ウクライナ軍はドンバスへの砲撃を劇的に増やした。翌日2月17日、なぜか米国が、数日以内にロシアがウクライナに侵攻すると発表した。それはつまり、この2日間のウクライナと米国の動きは、ロシアに侵攻を催促する罠だったと解釈できるものだった。その罠にかかるような形で2月21日、プーチンはドンバス地方のルガンスク人民共和国ドネツク民共和国を国家として承認、2月23日両人民共和国はロシアに軍事支援を要請した。そして翌日24日、プーチン国連憲章第51条を発動し、防衛同盟の枠組みで軍事支援を開始した(ウクライナに侵攻した)。

 

  ジャック・ボーの報告

    https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

    https://note.com/14550/n/n6603d32072eb

    https://note.com/14550/n/nbcebd70d9726

 

  Christopher Black, The Legality of War, New Eastern Outlook, Mar. 8, 2022.

    https://journal-neo.org/2022/03/08/the-legality-of-war/ 

    https://christopher-black.com/the-legality-of-war/

 

ジャック・ボーとChristopher Blackが述べた2021年から22年のウクライナNATOの動きはほとんど世間に知られていないだろう。2022年2月のウクライナ軍の砲撃激化については、米国やNATOは、ロシアの介入を完全に違法と思わせるため全く発表していないそうである。ボーによれば、今回の戦争が始まったのは、上述の経緯からみて、2月24日ではなく2月16日とするのが適切とのことである。

 

ただし、ドンバス地域で戦争取材を続けている独立系のジャーナリスト達が、ドンバス住民にインタビューすると、彼らは必ずこう言う。この戦争が始まったのは今年(2022年)ではない、2014年だと。我々は8年以上、自国の政府に砲撃され、殺されているのだと。

 

つづく。。。