霞喰人の白日夢

霞を食べて生きていけたら..

昨今の医学・薬学研究の怪しさ/危なさ

先日,イベルメクチンの話題とともに,医学・薬学の分野で語られるエビデンス統計学的証明)というものが,それほど確実なものではないことを述べた.

https://mistydream.hatenablog.com/entry/2021/03/30/230959

実験研究をする人々にとっては当たり前の話であるはずだが,学術的にはp値が基準値以下なら証明成功(帰無仮説を棄却),そうでなければ失敗ということになるから,常に研究成果を求められる研究者たちにとっては証明できたかどうかだけが重要で,その不確実性について考える余裕はないのかもしれない.いずれにしても,確率的な証明である以上,たった一つの研究による証明は「たまたま」ということもありえるのだ.

今日は,医学・薬学研究にとってもっと深刻な話を書こうと思う.少し長くなるが,私の個人的な経験談から始めよう

私は若いときから日本の医学研究に不信感を持っているのだが,それは中学生時代の母親の経験からである.当時,彼女は「三叉神経痛」という病気で苦しんでいたが,その治療法の一つに神経ブロックというものがあった.簡単に言えば,麻酔により神経を麻痺させて痛みを抑えるのだが,母親の場合は,当時通っていた病院でも,そこから紹介されて通った東大病院でもうまくいかなかった.そして,東大病院から「日本で一番の権威がいる」と紹介されて行った関東逓信病院で施術を受けた.朝日新聞の日曜版にも時々相談者として登場する有名医師だった.

その医師が研究していた最新の方法で母親は施術を受けたのだが,その結果は大失敗.ときどき起きる三叉神経の激痛が消えるどころか,常時激しい痛みが続くというよりひどい状態になった.当時はインフォームドコンセントなどという言葉もない時代.いったいどのような状況になってしまったのかは患者にはわからない.医者からは何の説明もなく,うまくいかなかった,これ以上は何もできないと言われ,激しい痛みを抱えて元の病院に戻らざるを得なかった.

問題はそれからだ.しばらくしてその「日本で一番の権威」が,母親が受けた施術に関する学会発表をしたと若い医者が教えてくれた.すべて成功し失敗例はゼロという研究発表だったという.若い医者はそれ以上は語らず,私には痛みを緩和する薬を出す以外何もできないと言った.それからは他の病院を転々としたが,どこの病院のどの医者も「どうしました?」と聞いた後に「権威」の名前を出して説明すると黙り込んだ.私には治療できませんというだけではない.もうここには来ないでくれという医者もいた.

個人的経験談がだいぶ長くなってしまったが,これを最初に書いたのは,これから以下に書く内容と本質的に同じ疑い −− 医学・薬学関係者の中には人の命や人生を左右するという使命感も倫理観も持たない人が多いのではないか −− を持たざるを得ない話だと思うからだ.よりシンプルに言えば,医学・薬学研究には嘘が多いのではないかということ.「嘘」という言葉がきつすぎるのなら「まやかし」といってもよい.最大限に控えめに言っても不誠実な研究が多いということだ.

きっかけは,次の翻訳記事だった.

 

翻訳記事:医学雑誌は製薬企業のマーケティング部門の延長である

 http://cont.o.oo7.jp/fukushima/32_23p643-8.pdf

オリジナル英語記事

https://www.researchgate.net/publication/7826261_Medical_Journals_Are_an_Extension_of_the_Marketing_Arm_of_Pharmaceutical_Companies

関連する記事もあったので挙げておく.

日常臨床における利益相反~製薬会社との適切な関係構築に向けて~

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/12/99_3112/_pdf

オリジナル記事の著者は,有名な医学誌BMJBritish Medical Journal )の元編集者で,BMJ出版グループの最高責任者でもあった人物である.まずは,最初の翻訳記事から重要な部分を引用しよう.

 

・2004 年3 月のこと,「医学雑誌は製薬産業の情報ロンダリング事業に堕してしまった.」とランセット(Lancet)の編集者・Richard Horton は記した.この同じ年のこと,ニューイングランド医学雑誌(New England Journal of Medicine:NEJM)の前編集者・Marcia Angell は,製薬産業が「何よりも先ずマーケッティング・マシン」になってしまい「邪魔をするかもしれない組織を皆吸収してしまった」ことを非難した.

・製薬産業の力と影響力に強い不快感を抱いている編集者は彼女やH o r t o n だけではない.もう一人のNEJMの前編集者・Jerry Kassirer は,製薬産業は多くの医師の道徳的なコンパスを狂わせていると主張し,PLoS Medicine 誌の編集者たちは,自分たちは「医学雑誌と製薬産業の間の,相互依存の輪の一部」には決してならないと宣言した.

臨床試験が製薬企業の製品にとって不利な結果にはほとんどならないということである.1994年のこと,Paula Rochonらは製薬企業が資金を提供して実施された非ステロイド性抗炎症薬に関する臨床試験を見つけられる限り全て検討した.56件の臨床試験が見つかったが,臨床試験のスポンサーとなった製薬企業に不利な結果を示したものは一つもなかった.

・2003年には,製薬産業が資金を提供した研究の結果と製薬産業以外から資金を得て行われた研究の結果とを比較した研究30件を用いて,システマティック・レビューをすることが可能となった.16 件は臨床試験やメタ分析を検討したものであり,13件では製薬企業が資金を提供した研究ではスポンサー企業に都合の良い結果が出やすいという結論であった.全体として,製薬企業が資金を提供した研究では,製薬企業以外から資金を得て行われた研究よりも,4 倍も製薬企業に有利な結果が出ていることが分かった.経済評価を行った5 件の研究全てが,製薬企業が資金を提供した研究ではスポンサー企業に有利な結果であった.

・製薬企業が思いのままの結果を得るためには,「正しい」問いを作れば良いのであり,その方法はたくさんある.製薬企業が有利な結果を得られる方法をいくつか表に示したが,有利な結果を得る可能性を大きく増やすには様々な方法があり,新しい方法を考え出して,同僚審査を出し抜くために雇われている者がたくさんいる.

・編集者たちは彼らの医学雑誌の予算やオーナーの利益に次第に責任を持つようになってきている.学会を含む多くのオーナーが,医学雑誌からの利益に依存している.こうして一人の編集者は,ぞっとするような厳しい利益相反に直面させられるかもしれない.すなわち,10万ドルの利益をもたらす臨床試験の論文を出版するか,編集者を1 名解雇して年度予算の帳尻を合わせるかという利益相反である.

 

要は,製薬会社が莫大な利益を上げるために臨床試験結果を自在にコントロールし,臨床試験論文を著名な医学雑誌に掲載し,多量の別刷り(コピー)を広告としてばらまき,私企業である医学雑誌側はその別刷り代で利益を上げているということだ.

ランセット(Lancet)やニューイングランド医学雑誌(New England Journal of Medicine:NEJM)とは,医学・薬学が専門ではない私でもその名を知っているほどの著名雑誌だ.一般の医者であれば,これらに論文が掲載されて効果が「証明」された薬,といえばイチコロであろう.そうした雑誌の編集長や編集者たちが,製薬会社は臨床試験結果を自在にコントロールできるといっているのだ.その方法の一部が以下の表である.

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驚きである.金と人手が潤沢にある製薬会社だからできることであろうが,はっきりいってデタラメである.私はコンピュータ・サイエンスの理論系研究者であったこともあり実験研究の経験は少ないが,この表にあるようなことはほとんど研究不正といってよい.博士課程の学生がこのようなことをしたら,厳しく叱責し,学位取得を諦めさせるだろう.

一流医学雑誌の編集者たちが告発したように,医学・薬学の世界でこのような研究や論文がまかり通っているのであれば,我々は何を信じればよいのであろうか.イベルメクチンの例でいえば,北里大学・花木秀明教授が指摘するような数々の疑問点がある論文が著名雑誌JAMA(Journal of the Americal Medical Association)に掲載されたのはなぜか.そこに,上記のような(私から見れば)論文不正はなかったのか.

https://kitasato-infection-control.info/swfu/d/ivermectin_20210322.pdf

そして,製薬会社メルクが臨床試験もしようとせず,安価なイベルメクチンの効果を否定するのはなぜか.臨床研究中の新薬「モルヌピラビル」をまもなく高値で販売できると踏んでいるからなのか.

https://www.afpbb.com/articles/-/3335353

 

研究には,良心と自制心と誠実さが必要だ.それがない研究は信用できない.