霞喰人の白日夢

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医学的逆転 - Medical Reversal

医学的逆転という言葉を,以下のサイトで初めて知った.

https://indeep.jp/medical-reversals-when-people-killed-by-medicine/

英語ではMedical Reversalというらしく,Wikipedia にも説明がある.

https://en.wikipedia.org/wiki/Medical_reversal

protest.jpgただし,日本語の「医学的逆転」という言葉はまだ一般的でないようで,"医学的逆転" とダブルクオーテーションで囲ってググってみても7件しか見つからない.最初に挙げたサイトでは,『推奨される治療法から 180度回転して医師たちが推奨しない治療法になるときに、それは医学的逆転(Medical reversal)』と説明されているが,念の為,Wikiの定義を翻訳しておこう.

Medical reversal refers to when a newer and methodologically superior clinical trial produces results that contradict existing clinical practice and the older trials on which it is based. This leads to an intervention that was widely used falling out of favor, because new evidence either demonstrates that it is ineffective or that its harms exceed its benefits.

(医学的逆転とは,より新しく優れた臨床試験が,既存の診療や旧来の試験と矛盾する結果を生み出す場合を指す.これは、古い方法に効果がない,あるいは利益より害のほうが大きいことを示す証拠が示されて,これまで広く使われていた古い方法が支持されなくなることを示す.)

今まで一般的だった治療法よりよい方法が見つかったというのではなく,今までの方法が誤っていたということだから,医学的逆転がもし起きれば,当の患者にとってはショッキングな出来事であるのは間違いない.それでもなかなか治らなかった病気がこれで快方に向かうならよいが,患者がすでに亡くなっている場合には,手遅れであれば,その家族にとっては耐え難い思いを味わうことになる.

protest.jpg上記の記事にはかつてのロボトミー手術,赤ちゃんのうつぶせ寝が例として挙げられているが,昭和の頃に幼稚園や小学校で広く行われていた集団予防接種が原因となったB型肝炎も,それに含まれるか,それに近いものと言ってよいだろう.私の親しい友人は今も幼少期の予防接種が原因と思われるB型肝炎に苦しんでいるし,姉は大人になってから,知らぬうちにB型肝炎に感染し自然治癒していた形跡のあることを医者に指摘された.

これも記事に書かれていることだが,さらに大きなインパクトを私に与えたのは,スウェーデンの医学者,セバスチャン・ラッシュワースの言葉だ.『残念ながら、この医学的逆転は一般的なことです。』というフレーズ.私も今月で定年を迎える年齢であるから,健康診断をすればいろいろと不具合はでる.頻繁に指摘されるのはコレステロールだが,しかしコレステロールや血圧に関しては,現在の標準的基準に対してずいぶん昔から根強い批判がある.スタチン系のコレステロール治療薬を飲んで値を下げれば心筋梗塞の発生率は下がるかもしれぬが,総死亡率が逆に上がるという話はあちこちで聞き,そして読む.年齢を重ねると医者たちはがん検診を勧めるが,いくらがん検診を普及させても総死亡率は下がらないという論文は,世界の一流論文誌に繰り返し,数多く出ている.

http://kjs.nagaokaut.ac.jp/yamada/info/science.pdf

オヤジは60代で脳梗塞に倒れた.高コレステロールが原因だとの医者の見立てにより血液をサラサラにする薬(スタチン.コレステロールを下げる薬で,世界で一番売れて薬剤会社がボロ儲けした象徴的な薬)を飲んで,魚卵やステーキや貝やイカ,脂の乗った美味しいものはすべてコレステロールが高いと禁止され,美味しいものを我慢して,スタチンを飲み続けた.そして,ガンになり死んだ.今,コレステロールの高低と食物の関係は否定され,コレステロールの高低とガン死亡率の関係は逆相関の関係にあると言われている.

protest.jpgフクシマ第一原発事故の後,福島県の子どもたちの多くがめったにかからないはずの甲状腺がんにかかった.しかし,国や福島県はそれはスクリーニング効果だ,放っておけば何の害にもならないはずの甲状腺がんを,一斉検査でむりやり発見しただけだという.だからこれ以上の検査をする必要はないという.えっ!? それは本当!? 

もしそれが正しいなら,ほかのがんでも検診は意味がないってことじゃないの? 放っておいてもよいがんを無理やり発見しているだけじゃないの? 前立腺がんは90%ぐらい,治療する必要はないがんだっていう論文が医学研究者の間では認められているよね.イギリスのNHSは,何年か前にマンモグラフィーで見つかる乳がんの数十パーセントは治療をする必要がないがんだって発表している.スイスかオーストリアか忘れたけど,マンモ検査で見つけるガンの多くは治療する必要がないってマンモ検査を推奨していない.

Overdiagnosis,過剰診断という.がんの研究者なら皆知っているはずだが,不勉強な町医者には過剰治療(Over treatment)と区別がついていないものもいる.がんには治療をする必要のない,放っておけばよいものが,かなりあることが世界中の研究によって明らかになっているのに,現代の医療では治療すべきかどうかの区別がつかない.だからほとんどの医者はがんを見つけたらすべて治療しようとする.外科手術とか,抗がん剤とか.それが過剰診断だ. そして,その結果,不必要な手術をし,不必要な抗がん剤を飲み,場合によっては不必要な治療が原因であっという間に死んでしまう.私の親父もそうだった.

この理不尽な現実を覆すような「医学的逆転」がいつ起こるか.私はそれをずっと待っている.オヤジが命をもって教えてくれたのだから.